研究課題/領域番号 |
17K08338
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
田中 隆 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 教授 (90171769)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ポリフェノール / エラジタンニン / カテキン / 酸化還元 / 生合成 / 紅茶 |
研究実績の概要 |
植物ポリフェノール類は酸化されやすく、抗酸化活性など代表的な生物活性もその性質によるところが大きい。植物体内での生合成についてもこれまでは酸化的に代謝されていると考えられていた。しかし我々は、ビフェニル結合を持つ紅茶ポリフェノールが生成する際に、まず茶カテキンが酸化された後で非酵素的に還元されて生成していることを明らかにした。さらに、同様にビフェニル結合を持つエラジタンニン主要構成アシル基ヘキサヒドロキシジフェノイル(HHDP)基は、これまで二つのガロイル基が酸化的に結合して生成すると考えられていたが、クマシデやアカシデの葉の成長に伴うエラジタンニン組成の変化、及び分離したエラジタンニンの様々な条件下での反応性を詳細に検討した結果、HHDP基はガロイル基が酸化して生成するデヒドロヘキサヒドロキシジフェノイル(DHHDP)基が非酵素的に還元されて生成することを強く示唆する結果を得た。紅茶ポリフェノール生成とエラジタンニン生合成は全く異なる場所で異なる物質が起こす反応であるが、その反応メカニズムは基本的に同じである可能性が示されたことになる。この非酵素的反応は化合物自身が酸化され還元される酸化還元不均化反応と推測され、還元が起こると同時に酸化生成物も生成しているはずである。紅茶ポリフェノールでは還元生成物と同時に生成する酸化生成物をいくつか同定することに成功したが、エラジタンニンについては、DHHDP基を持つエラジタンニンから多種の還元生成物が生成することを確認しているが、酸化生成物を同定するには至っておらず現在検討を行っている。本研究ではさらに、ポリフェノール酸化における立体選択性や位置選択性について多くの知見が得られ、また、この研究で得られた知見を応用することで既知生理活性化合物の構造訂正とバイオミメティック合成にも成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エラジタンニンの酸化還元不均化反応が起こっている植物としてアカシデ、クマシデに加えてホルトノキ、スダジイ、ザクロでも起こっていることを確認した。また、DHHDP基の還元が起こる場合と起こらない場合があり、その理由について計算化学的な手法により一部を明らかにすることができた。カテキン類の酸化については、酸化還元不均化反応の酸化生成物を新たに確認し、立体選択性が生じる理由も化学的および機器分析手法を駆使した実験と計算化学的手法によって解明することができている。その他、カテキン酸化については新しい紅茶色素合成法の開発や既知生理活性化合物の構造訂正とバイオミメティック合成にまで展開している。したがって研究は順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
不安定なDHHDP基を持つエラジタンニンは、水溶液中室温で酸化還元不均化反応を起こして還元生成物を与えるが、同時に生成しているはずの酸化生成物はHPLCで検出することができていない。安定なDHHDP基を持つエラジタンニンでも、ある特殊な条件では酸化還元不均化反応を起こすことが明らかになっており、現在そのような実験系で詳細な反応条件の検討を開始している。 構造式は全く同じにもかかわらず安定なDHHDP基とすぐに酸化還元不均化反応を起こす不安定なDHHDP基が存在する理由について、計算化学的な手法で検討する予定である。
|