研究課題
ポリフェノール類の抗酸化作用は、他の物質よりも酸化されやすい性質によるもので、その植物体内での代謝や食品加工時の構造変化も酸化反応で説明できると考えられてきた。ところが我々は酸化だけでは説明できない反応が様々な場面で起こっていることを発見し、その反応機構を解明すべく研究を行っている。茶葉を揉捻して製造される紅茶にはカテキンが酵素酸化された紅茶ポリフェノールが含まれる。茶葉の主成分エピガロカテキン類はまず酵素によりキノンに酸化され、次に非酵素的反応で不安定な二量体デヒドロテアシネンシン類(DTS)になる。DTSは茶葉に蓄積されるが加熱乾燥する過程で消失し還元生成物のテアシネンシン類(TS)に変化する。この反応は酸化還元不均化反応で、DTS自身が酸化剤であると共に還元剤でもある。紅茶には還元生成物のTSが多く含まれるが、同時に生成する酸化生成物についても構造が明らかになってきた。また、反応初期段階でのキノンの反応についても詳細が明らかになってきた。紅茶色素テアフラビン類も生成と分解の反応機構が明らかとなり、テアフラビンの新規合成法や生理活性化合物の構造訂正に応用した。最近紅茶特有の機能性成分として高分子ポリフェノール(テアルビジン)が注目されているが、その化学構造は未解明であり、我々はその生成機構についても検討を開始している。エラジタンニンも植物界に広く分布する重要なポリフェノール類である。ゲラニインは民間薬ゲンノショウコの主成分として知られるが、同じくゲラニインを主成分とするアカシデやホルトノキでは新芽ではゲラニインの酸化体が主成分であり、葉の成長に伴って還元されゲラニインが増加することを発見した。同様の還元的代謝はクマシデ、ザクロ、シイなどでも起こっていた。この反応は上記DTSと同様の非酵素的酸化還元不均化反応であることを突き止め、現在反応機構を解析中である。
2: おおむね順調に進展している
紅茶ポリフェノールについてカテキン酸化反応生成物の解析やモデル反応による解析がほぼ終了し、現在は構造不明の高分子生成物テアルビジンの生成過程における酸化還元不均化反応の関与の有無を検討している。エラジタンニンの代謝についてもアカシデ、クマシデ、シイ、ザクロについて研究は順調に進んでおり、還元的代謝の普遍性を検証するために対象植物を広げ、それらについて結果が出つつある。しかし、酸化還元不均化反応機構の解析において説得力のある化学的証拠が未だ不十分であるため、新たな方法論で研究を展開する。本研究の中で、ポリフェノールの非酵素的酸化反応についても検討が必要と考えられたため、自動酸化により生成する高分子ポリフェノールやカテキンオリゴマーの分析・構造解析手法を検討している。上記内容について論文の執筆を現在進めている。
新たな方法論のもとで酸化還元不均化反応機構の解析を継続する。また、研究開始時以降に新たに研究対象とした植物について結果の取りまとめを行うと共に、さらに他の植物についても検討して酸化還元不均化反応の普遍性を検証する。得られた結果について学会発表と論文執筆を継続して行う。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
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