研究課題/領域番号 |
17K08339
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
石崎 敏理 大分大学, 医学部, 教授 (70293876)
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研究分担者 |
花田 克浩 大分大学, 医学部, 助教 (90581009)
寺林 健 大分大学, 医学部, 助教 (40452429)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ステロイド配糖体 / 細胞運動 / ERK / AKT / チモサポニン / インテグリン |
研究実績の概要 |
漢方薬の小柴胡湯の有効成分で、フラボンの1種であるバイカレインは、既報ではリポキシゲナーゼ阻害による抗炎症薬作用や、TRPC1チャネルの発現阻害によるET-1誘導による肺動脈平滑筋増殖の抑制効果を有することが示されていた。 我々のグループでは、正常乳腺細胞由来癌細胞運動促進因子として、ラミニン332を単離・同定した。ラミニン332を添加すると、乳がん細胞MBA-MD-231は形態を伸展させ、運動亢進が観察できる。他の細胞外マトリクス(ラミニン331、フィブロネクチン等)では、このような反応は観察できず、ラミニン332特異的な現象であることが判明した。一方、バイカレインを前処理した乳癌細胞では、ラミニン332による細胞形態変化・運動亢進もバイカレインの濃度依存的に抑制されることが判明した。また構造上類似性を認めるフラボン類では同様な細胞運動抑制効果は認められず、バイカレイン特異的な反応であることが判明した。次いで、live imagingにより、バイカレインの細胞運動抑制効果の機序の探索を行った。ラミニン332を添加すると、MBA-MD-231細胞の細胞辺縁で葉状仮足が増強していた。一方、バイカレイン処理細胞ではラミニン332添加による葉状仮足がほとんど観察されなかった。このことから、バイカレインは低分子量GTP結合タンパク質Racの情報伝達経路が障害していることが示唆された。加えて、活性型Rac発現細胞で観察される葉状仮足は、バイカレイン処理では抑制されなかった。以上のことから、バイカレインは、Racの上流の情報伝達経路の抑制により、細胞運動を障害することが示唆された。以上の結果から、バイカレインによる細胞運動抑制効果は、既報で報告されているような標的以外の新規標的分子が存在することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Timosaponin A3 (TA3)は 濃度依存的にHeLa細胞に添加2分からERKリン酸化が亢進する。このTA3によるERKリン酸化亢進は上皮系の細胞以外にも、線維芽細胞でも認められた。この結果から、TA3によるERKリン酸化の亢進は細胞特異的ではない反応であることが示唆された。TA3処理によりERKのリン酸化の亢進とは逆に、TA3処理によりAKTのリン酸化は抑制されることが観察された。この抑制は、ERKのリン酸化の亢進と同様なtime courseで観察された。ERK、AKTのリン酸化の亢進はEGFの添加により観察される。そこで、細胞増殖因子によるERK、AKTのリン酸化亢進に対するTA3の相加的もしくは相乗的な効果があるかについて検討した。その結果、EGFによるERKのリン酸化の亢進は相加的であるが、AKTのリン酸化亢進に対する抑制効果は観察されなかった。以上の結果から、TA3は細胞増殖因子を介する情報伝達経路とは別経路を調節していること、またTA3はERKとAKTの活性化のバランスを調節していることが判明した。TA3はステロイド配糖体で、その構造はジギタリスと酷似している。ジギタリスの標的はNa-K ATPaseであり、複合体構造解析も行われている。その結果をもとに、種々のステロイド配糖体とドッキングモデルを作製したところ、TA3はNa-K ATPaseと結合しうることが判明した。そこで、TA3の効果が、Na-K ATPaseを介するかを検証するため、ジギタリスもしくはTA3処理後で、ERKのリン酸化を指標に検討した。その結果、ジギタリス処理細胞でもERKのリン酸化の微増は認められたが、同一濃度のTA3処理では、よりリン酸化の亢進を認めた。以上から、TA3によるERKのリン酸化はNa-K ATPase以外の標的に作用する効果であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究あわせると、TA3はNa-K ATPase以外の標的に作用して、細胞運動障害およびERKのリン酸化亢進を惹起すると考えられる。そこで、本仮説を検証するために、以下の2点、①TA3によるNa-K ATPase活性阻害効果の検証、②TA3の細胞標的分子の探索、について研究を展開する。 ①TA3によるNa-K ATPase活性阻害効果の検証: ジギタリスは間接的にNa-Ca交換体の活性を抑制することで、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を惹起する。そこで、TA3にもそのような活性があるかについて、細胞を用いたカルシウムイメージングを実施する。あわせて、ジギタリス―Na-K ATPase複合体構造より、この複合体結合に不可欠なアミノ酸残基に点変異を導入したNa-K ATPaseを作製・発現させ、同時に内在性のNa-K ATPaseをRNAi法により枯渇させた細胞を対象に、TA3を処理し、TA3によって増強されるERKのリン酸化を指標に、Na-K ATPaseへのTA3の効果を検証する。 ②TA3の細胞標的分子の探索: TA3は、細胞運動に必須な因子に影響を及ぼし、細胞接着斑のturn-overを抑制することが見出されている。昨年度の結果をあわせると、その標的はインテグリン複合体であることが予想される。そこで、TA3に蛍光標識を導入し、標識体TA3を細胞に添加し、その細胞局在を検討する。仮説が正しければ、蛍光シグナルは細胞接着斑に濃縮して観察されることが期待される。
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