研究課題
和漢薬をはじめとする伝統薬物は、西洋医学で用いられる薬物では治療困難な疾患に対しても効果を示す例が数多くある。一方で、伝統薬物は含有成分が多く,そのことが薬理作用の包括的理解並びに治療薬としての有効性を提示することを困難にしている。本研究期間内に我々は以下のチモサポニンを含む3つの天然化合物について、新規機能を細胞において明らかにした。①チモサポニン:チモサポニンを培養細胞に添加することにより、細胞運動・細胞形態変化を誘導することを見出した。この運動能抑制・形態変化は、アクチン細胞骨格再編成に寄与するRacの下流情報伝達経路がチモサポニン添加により阻害されていることに起因することを見出した(論文投稿準備中)。また、チモサポニン添加により、細胞表面に存在する標的分子(同定済み)に作用することにより、細胞内カルシウムの上昇がERKのリン酸化の上流で働いていることを見出した(論文作成中)。②バイカレイン:前述したチモサポニンと同様に、バイカレインはRac依存的な葉状仮足形成を阻害することで細胞運動を抑制する。しかし、その作用点はチモサポニンとは異なり、Racの上流でRacの活性化を抑制することにより細胞運動を阻害することが判明した(掲載済み)③ベンジルイソキノリン(ベルベリン、コプチシン):1型トポイソメラーゼを阻害する。カンプトテシンにも同様な1型トポイソメラーゼ阻害活性があり、今日では2つのカンプトテシン類似物質トポテカンとイリノテカンが承認され、癌化学療法に用いられている。ベルベリンとコプチシンは同様な阻害機構であるにもかかわらず、カンプトテシン耐性癌細胞で殺細胞活性を有していることが判明した。これらの結果から、ベンジルイソキノリンアルカロイドとカンプトテシンとの併用した化学療法により、より効率的にがん細胞を消失させる可能性が示唆された(投稿中)。
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