研究課題/領域番号 |
17K08341
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研究機関 | 城西国際大学 |
研究代表者 |
田嶋 公人 城西国際大学, 薬学部, 准教授 (60406783)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 実験動物 / 胃腸機能性障害 / ストレス / 機能性ディスペプシア / 病態モデル動物 / 温度感受性TRPチャネル / 漢方薬 / 薬効解析 |
研究実績の概要 |
申請者は、ストレス性胃腸機能障害である機能性ディスペプシア (FD) の治療薬開発の基盤にとなる病態モデル動物を作製し、それらモデル動物から病態原因を考察してきた。それら研究成果として、ワサビ辛味成分アリルイソチオシアネート(AITC) による胃運動減弱モデルマウスを土台にして、今年度は胆汁酸投与によりFD症状の病態根幹となる胃運動減弱を引き起こす新規モデルを確立することに成功した。さらに、FD症状である悪心嘔吐をげっ歯動物で評価できる実験系も確立することに成功した。 ①胆汁酸誘起胃運動減弱モデル動物を開発:胆汁酸であるタウロコール酸やデオキシコール酸を投与することで胃運動減弱を観察した。そして、その運動低下はFD治療薬である六君子湯とアコチアミドにより一部改善することも観察された。 ②悪心・嘔吐をマウスで評価できるパイカ行動の実験系確立:シスプラチン誘起悪心・嘔吐症状をパイカ行動で評価することに成功したため、AITC誘起胃運動減弱マウスでのFD症状の評価項目として考えている。 ③AITC 誘起胃運動減弱マウスを用いた漢方薬の薬効解析:我々が開発したAITC誘起胃運動減弱モデルマウスは、AITCによる胃粘膜タイトジャンクションバリアの崩壊による粘膜微小炎症、そして、内臓知覚神経に発現するTRPA1チャネルを刺激することで神経原性炎症を引き起こし胃運動減弱状態に至る病態モデルであることがこれまでの解析で明らかとなった。なお、漢方薬大建中湯は摘出マウス下部消化管標本を用いた消化管平滑筋収縮反応(in vitro)、また、大建中湯によるラット胃粘膜血流の増大反応 (ex vivo)も温度感受性チャネルTRPV1およびTRPA1が作用点であることが判明した。胃運動減弱病態モデルにおける漢方薬大建中湯による胃運動亢進作用については、温度感受性TRPチャネルの関与も含め検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ストレス性胃腸機能障害である機能性ディスペプシア (FD) において、病態の根幹となる胃運動減弱状態をこれまでは胃粘膜タイトジャンクションバリアの破壊作用のあるアリルイソチオシアネート (AITC) を用いて作製を試みていた。しかし、十二指腸から分泌される胆汁酸に着目して検討したところ胃運動減弱作用を引き起こすことが観察された。そのため、内因性因子である胆汁酸でも胃運動減弱状態を誘起できたため、FDの病態原因に胆汁酸が関与しうることを示唆することができた。今年度までに到達できた研究項目を以下に記す。 ① AITC誘起胃運動減弱モデルマウスを用いた漢方薬の薬効解析:漢方薬大建中湯は正常マウスでは胃運動亢進作用は現れなかったが、AITCにより胃運動減弱状態にすると大建中湯の薬効である消化管運動改善作用が観察された。その薬効解析は温度感受性TRPチャネルも含む薬理学的解析を行っている。 ② 胆汁酸誘起胃運動減弱モデル動物を開発:胆汁酸成分デオキシコール酸投与によりマウス胃運動を濃度依存的に減弱することを観察した。 ③ げっ歯動物でも悪心嘔吐を評価できる「パイカ行動」の実験系確立:抗がん薬シスプラチンにより悪心嘔吐の症状をパイカ行動で評価することに成功したため、AITC誘起胃運動減弱マウスにおいてFD症状が現れていないか評価したいと考えている。 FD病態モデル動物の確立において胃運動変化だけでなく、食餌量やパイカ行動により悪心嘔吐の症状の有無を動物実験で解析できるようになった。さらに、胃十二指腸粘膜炎症について血管透過性の変化だけでなく、マクロファージ・好中球・好酸球などの関与も評価する実験系構築に取りかかり、消化管運動改善薬だけでなく抗炎症作用や抗アレルギー作用を有する薬物もFD治療薬になりうるか検証していきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
申請者は、ストレス性胃腸機能障害である機能性ディスペプシア (FD) 病態モデル動物の作製において、ワサビ辛味成分アリルイソチオシアネート (AITC) が有するタイトジャンクション (TJ) バリア崩壊作用によりLeaky gut を起因とした胃運動減弱病態モデル動物を作製した。そして、胆汁酸成分であるデオキシコール酸の投与により胃運動減弱状態を作製することに成功した。ヒトFD症状の機能異常の根幹は胃運動障害と考えられているため、これら病態モデル動物からFD症状の病態原因を解明する機会に恵まれたと考えている。そのため、今後はAITC誘起胃運動減弱病態モデル動物、および胆汁酸誘起胃運動減弱モデル動物を用いてFDの病態原因を明らかにし、その治療ターゲットを提唱したいと考えている。なお、解析項目としては胃・十二指腸粘膜における微小炎症の状態を好中球、好酸球、肥満細胞など炎症性サイトカインを放出する細胞の胃・十二指腸粘膜への集積を観察し、粘膜TJバリアにおいては粘膜透過量の変化を低分子マーカーにて検討する予定である。また、既存のFD治療薬アコチアミドと六君子湯、そして、漢方薬大建中湯においても抗炎症作用と粘膜透過性への作用発現を中心に解析を進める予定である。さらに、FD症状である悪心嘔吐についても実験動物の行動変化「パイカ行動」にて上記の治療薬が効果発現するかも検証したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
残金については、次年度の研究費として活用させていただきます。
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