ストレス性胃腸機能障害である機能性ディスペプシア (FD) は、胃運動の減弱と内臓知覚過敏を伴う疾患である。申請者はこのFDの病態メカニズムを明らかにして新たな治療ターゲットを提唱するために、「FDは胃・十二指腸粘膜の微細炎症に起因する」と仮説を立てて病態モデル動物を開発することを試みてきた。その結果、これまでにFDの病因である胃運動減弱を引き起こすモデル動物を以下2種類開発することに成功した。 ① ワサビ辛味成分アリルイソチオシアネート (AITC) 誘起胃運動減弱モデル動物: AITC処置により胃粘膜の血管透過性亢進と血管拡張が生じ粘膜レベルで微細炎症が惹起されることを観察した。また、この現象は内因性一酸化窒素により炎症が抑制されたが、内因性プロスタグランジンと内臓知覚神経終末からのサブスタンスPとカルシトニン遺伝子関連ペプチドによりそれぞれ炎症が惹起されることを見出した。これらより、AITC誘起胃運動減弱モデル動物は胃粘膜レベルでの微細炎症を基盤としたモデル動物であることを見出した。さらに、このモデル動物を用いて胃運動改善薬であるイトプリド、そして、消化管運動亢進作用と抗炎症作用を併せ持つモサプリドと大建中湯が改善効果を現すことも明らかにした。 ② 胆汁酸デオシキコール酸誘起胃運動減弱モデル動物: FDが高脂肪食による胆汁酸の分泌亢進に関連することが示唆されたことから、その病態モデル動物を作製することでそれらの関連性を明らかにすることを試みた。その結果、胆汁酸のうちデオキシコール酸を処置することで胃運動減弱を引き起こされること、また、その現象は既存のFD治療薬であるアコチアミドと六君子湯では改善作用は非常に弱く、イトプリドでは全く作用を示さない新しいモデル動物を開発することができた。今後、胆汁酸受容体もしくは粘膜微細炎症が関与するのか解析を続ける予定である。
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