研究課題/領域番号 |
17K08346
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
三巻 祥浩 東京薬科大学, 薬学部, 教授 (90229790)
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研究分担者 |
横須賀 章人 東京薬科大学, 薬学部, 准教授 (20318190)
松尾 侑希子 東京薬科大学, 薬学部, 講師 (70434016)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | AMPK活性化 / 細胞毒性 / 天然物 / イレイセン / フラボノイド配糖体 / メトホルミン / 併用効果 / HepG2細胞 |
研究実績の概要 |
昨年度実施した生薬抽出物のスクリーニングの結果、生薬イレイセン抽出物と糖尿病治療薬メトホルミンを併用すると、メトホルミンのHepG2ヒト肝がん細胞に対する腫瘍細胞毒性が増強することを見出した。そこでイレイセン抽出物とメトホルミンの併用効果がAMPK活性化を介していることを確認するため、AMPK阻害剤ドルソモルフィンを添加し、細胞毒性の変化をMTT法で評価した。その結果、阻害剤を添加すると細胞毒性が失われたことから、併用効果による腫瘍細胞毒性の増強はAMPKの活性化を介していることが示唆された。イレイセンに含まれる活性物質を同定するため、基原植物の明らかなイレイセン(Clematis mandshuricaの根及び根茎)を10 kg入手して抽出エキスの調製し、Diaion HP-20カラムクロマトグラフィーを用いて、5個の粗画分に分画した。 最近、イレイセンと同じくキンポウゲ科クレマチス属植物Clematis tanguticaから単離されたフラボノイド配糖体がAMPK活性化作用を示すことが報告された。そこで、申請者の所有する天然物ライブラリーのち、フラボノイド配糖体についてAMPK活性化作用を一斉にスクリーニングした.その結果、マメ科ウラルカンゾウGlycyrrhiza uralensis種子由来のフラボノイド配糖体 apigenin 6-C-α-L-arabinopyranoside 8-C-β-D-glucopyranoside (isoschaftoside) が、濃度依存的にAMPK活性化作用を示した。一方、apigenin 6,8-di-C-α-L-arabinopyranosideはHepG2細胞に対して、低濃度の方が強い活性化作用を示すという、興味深い知見を得た。 その他、ビャクジュツ、チモ、オウゴン抽出物に、それぞれメトホルミンとの併用により、HepG2細胞に対する細胞毒性が増強することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度に計画した実験項目は、1)生薬・植物エキスとメトホルミンとの併用効果の評価、およびイレイセンからAMPK活性化成分の分離、2)天然物由来化合物のAMPK活性化の評価、であった。 1)に関しては、まずイレイセンとメトホルミンの併用効果が AMPK 活性化を介していることを確認した。次に、イレイセン(Clematis mandshuricaの根及び根茎) (乾燥重量10 kg) を入手し、そのメタノール抽出エキス(190 g)を調製した。抽出エキスをDiaion HP-20カラムクロマトグラフィーに付し、5個の粗分画に分画した。各粗画分について、AMPK活性化を指標とし、各種クロマトグラフィーによる活性成分の探索に着手した。また、ビャクジュツ、チモ、オウゴン抽出物に、それぞれメトホルミンとの併用により、腫瘍細胞毒性が増強することを見出した。 2)に関しては、天然物ライブラリーのうち、フラボノイド配糖体のスクリーニングを実施し、ウラルカンゾウ Glycyrrhiza uralensis 種子由来のフラボノイド配糖体 apigenin 6-C-α-L-arabinopyranoside 8-C-β-D-glucopyranoside (isoschaftoside) が、HepG2ヒト肝がん細胞において濃度依存的にAMPK活性化を示すことを見い出した。一方、apigenin 6,8-di-C-α-L-arabinopyranosideはHepG2細胞に対して、低濃度の方が強い活性化作用を示すという、興味深い知見を得た。 以上の結果が得られたことから、研究課題は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、本年度が最終年度である。本年度は、天然物ライブラリーからさらに多くのAMPK活性化物質を見出し、メトホルミンとの併用効果および作用メカニズムを解明して、難治がん治療薬のシーズ探索という最終目的を達成する。これまでの研究結果をさらに発展させるために、以下の項目を重点的に実施する。 1)イレイセン抽出物の活性成分の同定:AMPK活性化を指標としたイレイセン抽出物の分離を進め、単離された化合物の構造を明らかにするとともに、AMPK活性化活性を評価する。ここで得られた化合物は単独での腫瘍細胞毒性を評価した後、メトホルミンとの併用効果を検討する。 2)天然物ライブラリーのスクリーニング:申請者の所有する天然物ライブラリーのち、トリテルペン配糖体、ステロイド配糖体、アルカロイドを中心にメトホルミンとの併用による腫瘍細胞毒性の増強作用のスクリーニングを実施する。 3)天然物とメトホルミンとの併用効果のメカニズムの解明:天然物とメトホルミンとの併用により腫瘍細胞毒性が増強した場合、併用による細胞死の様式がアポトーシス、ネクローシス、オートファジーのいずれであるかを、細胞染色による形態観察、カスパーゼ‐3などの酵素活性の測定、細胞周期解析、断片化DNAの観測、オートファゴソームの形成とLC3タンパクの発現などから評価する。さらに、AMPKの上流に位置するLKB1の活性やp53遺伝子の発現をウエスタンブロット法により評価する。
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