研究課題/領域番号 |
17K08347
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
羽田 紀康 東京理科大学, 薬学部薬学科, 教授 (70296531)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 無脊椎動物 / 複合糖質 / 糖脂質 / 寄生虫 / Echinococcus granulosus / 海綿 / Agelas dispa / 化学合成 |
研究実績の概要 |
無脊椎動物から見出された複合糖質の糖鎖構造は、高等動物の糖鎖構造とは大きく異なり、生物活性の観点からとても興味深い。私はこれまで様々な寄生虫から見出された新規性の高い糖脂質や糖タンパク質の糖鎖部分を化学的の合成し、その機能解明を試みてきた。近年では寄生虫と海綿の糖鎖に焦点を当て、前者は診断薬の可能性を探るために、後者は抗炎症、抗腫瘍等の作用を期待して創薬を目指してきた。本年度は、寄生虫の中でエキノコックス属の中の単包条虫Echinococcus granulosusから見出された糖タンパク質糖鎖及び海綿Agelas dispar 由来の糖脂質を合成目標とした。エキノコックス由来の糖鎖に関してはこれまでに多包条虫由来の糖脂質と糖タンパク質糖鎖の合成を行い、それらの化合物のいくつかに、健常人の血清に対する抗原性はないが、多包虫症感染患者の血清に対しては抗原性がある事を見出してきた。一方、単包条虫由来の糖鎖構造は、多包条虫由来の糖鎖構造と同じ構造を有するものも存在するが、異なった糖鎖構造を有するものも数種類見出されており、その中から直鎖構造を有する三糖(Galβ1-3Galβ1-3GalNAcα1-R)及び四糖構造(Galα1-4Galβ1-3Galβ1-3GalNAcα1-R)の合成を完了した。29年度はこの四糖構造にさらに中間位にガラクトースがβ結合で伸張した五糖の合成を効率よく合成することを目標とし、還元末端三糖と、非還元末端二糖に分けて部分合成し、最後に併せて五糖にする方法で目的化合物の全合成に成功した。一方、Agelas dispa 由来の糖脂質は4種類の二糖糖脂質と1種類の三糖糖脂質が報告されており、前者の合成は完了しており、本年度は三糖糖脂質の全合成を目標とした。その結果、三糖アジドスフィンゴシン誘導体まで導いてきたが、全合成までにはいたらなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
単包条虫Echinococcus granulosus由来の糖鎖は目的の五糖まですべて終了し、連携研究者に患者血清に対する抗原性まで依頼できた。当初は、単糖誘導体ずつ糖鎖伸張させるステップワイズな方法を試みてきたが、収率及び合成効率の観点から悪く、二糖+三糖に分けたブロック合成にすることにより全合成を完了させるとともに、活性測定に十分な量を供給できた。一方、海綿由来の三糖糖脂質合成においては、アジドスフィンゴシン誘導体の大量合成に手間取り、全合成に耐えうる十分な量の確保が出来なかった。そのため少量スケールでの糖鎖伸張を余儀なくされ、あと数ステップで完了するところまできたが、全合成完了にはいたらなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は計画通り、まずは別の海綿、Terpio属から見出された新規糖脂質Fucfα1-3Glcβ1-Cerと関連誘導体の合成を目標とする。これまでにフコフラノースを含む糖脂質は動植物を通じて初めての報告であり、生物機能の観点から興味深い糖脂質である。そこで、まず天然型の本糖脂質を合成し、次ぎに糖鎖間のグリコシド結合の立体をα対からβ体に置き換えた糖脂質と、フコピラノースを含んだ糖脂質も非天然型糖脂質として併せて合成し、生物活性を測定する比較対象化合物とする。一方で、Agelas dispar由来の糖脂質は、再度合成計画を見直し、アジドスフィンゴシンの効率的な合成を確立するところから始めなければならないと考えている。アジドスフィンゴシン誘導体は過去に何度も合成しているが、収率にばらつきが多く、再現性の問題がつきまとってきた。この問題を克服し、誰もが一定量供給できるルートの確率が重要だと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
必要経費を使用してきた結果、今回端数として、530円残ってしまった。本端数は30年度の計画に組み入れて使用する予定である。
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