研究実績の概要 |
無脊椎動物から見出された複合糖質の糖鎖構造は、高等動物の糖鎖構造とは大きく異なり、生物活性の観点からとても興味深い。私はこれまで様々な寄生虫から見出された新規性の高い糖脂質や糖タンパク質の糖鎖部分を化学的の合成し、その機能解明を試みてきた。近年では寄生虫と海綿の糖鎖に焦点を当て、前者は診断薬の可能性を探るために、後者は抗炎症、抗腫瘍等の作用を期待して創薬を目指してきた。本年度は、海綿から見出された新規糖脂質のうち、Terpios 属から見出された糖脂質と、堀田裂頭条虫から見出された糖脂質を合成目標とした。Terpios属由来の合成目標糖脂質はFucfα1-3Glcβ1-Cerは適切なコフラノース供与体、グルコース受容体及びセラミド受容体を合成し、順次縮合させ二糖糖脂質誘導体を得た後、全ての保護基を脱保護し、目的糖脂質の全合成を完了した。非天然型誘導体Fucfβ1-3Glcβ1-Cerにおいても微量ではあったが、その合成を完了した。さらにこれらの化合物はヒトすい臓がん細胞PANC1に対する抗がん活性をコロニー形成法によって調べ、天然型が33%,非天然型が19%コロニーを阻害していることを明らかにした。 一方、堀田裂頭条虫由来の糖脂質Galβ1-4(Fucα1-3)Glcβ1-3Galβ1-Cerは、還元末端側のガラクトシルセラミド受容体と、非還元末端側の三糖供与体まで導いたが、これらを縮合するところまでは至らなかった。
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