本邦では、高齢化の加速に伴い痴呆症の数が増大する事が予想されその約6~7割がアルツハイマー病(Alzheimer’s disease; AD)が原因と言われている。従ってADの早急な対策が社会的に強く求められている。ADは、脳にアミロイドベータと呼ばれる異常なタンパク質が蓄積し、神経細胞死が進行する原因不明の難病で、特効薬はいまだ上市されていない。そこで治療薬のシード化合物の候補の探索を海洋由来真菌に求めた。研究室の海洋由来真菌の培養抽出物ライブラリーを用いて、ランダムスクリーニング(Th-T法:アミロイドβ凝集試験)を行った結果、Galactomyces pseudocandidus (MPUC 398) の酢酸エチル抽出エキスとMPUC 239の酢酸エチル抽出エキスに凝集抑制が認められたので、この2種類に関して活性試験を行いながら、分離操作を行なった。昨年度までにMPUC 398からは新規化合物(galactopyridoneと命名)と2種の既知化合物(SC2051およびharzianopyridone)を,MPUC 239からは2種の既知化合物(fonsecinおよびrubrofusarin)を単離した。このうち、SC2051は強いアミロイド凝集抑制活性を示した(IC50 = 2.5 μM)。 平成31年度(令和元年度)では引き続きMPUC 239について研究を進め、化合物C~Fを単離した。構造解析を行ない、それぞれdianhydro-aurasperone C、asperpyrone C、fonsecinone Aと同定した。化合物Fはdinaphthalenone誘導体であるが、完全な構造解析に至っていない。化合物C~Eは中程度のアミロイド凝集抑制活性を示した(IC50 = 10.0~15.0 μM)。一方化合物FはIC50 = 3.9 μMと強い活性を示した。
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