研究課題/領域番号 |
17K08352
|
研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
井上 誠 愛知学院大学, 薬学部, 教授 (50191888)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | レチノイドX受容体 / アルツハイマー病 / 天然由来RXRアゴニスト / ホオノキオール誘導体 / 抗炎症作用 |
研究実績の概要 |
C57BL/6-App<tm3(NL)Tcs>(NLGFマウス)はアミロイドβ(Aβ)の蓄積が起こるアルツハイマー病(AD)モデルとしてだけでなく、AD発症の原因の一つと考えられているAD発症初期における脳内炎症が惹起されるモデルとしても有用である。そこで、12ヵ月齢のNLGFマウスの海馬、大脳皮質における炎症関連遺伝子の発現に及ぼす効果を調べた。その結果、コントロールマウスであるC57BL/6-App<tm1(NL)tes>(NLマウス)に比べNLGFマウスでは、炎症性サイトカイン腫瘍壊死因子(TNF)-αなどの発現の上昇とコレステロールの排泄や抗炎症活性に関与しているATP-binding cassette transporter A1(ABCA1)の発現低下が観察され、軽度の炎症が惹起されていることがわかった。そこでホオノキオール誘導体(化合物1)を一週間NLGFマウスに経口投与(30~100mg/kg)したところ、化合物1は海馬におけるインターロイキン1β及びTNF-αのmRNAの発現を有意に減少させた一方、ABCA1の発現を増加させた。これらの結果より、マクロファージ系細胞RAW264.7で観察された化合物1の抗炎症作用が、NLGFマウスの脳内においても観察されることがわかった。さらに、脳内炎症に対する化合物1の効果を調べるために、リポ多糖を0.25μg/kgの濃度で一週間腹腔内投与し認知症モデルを作製した。本モデルマウスでは、新奇物体認識試験において有意な認識の低下が観察された。また、NLGFマウスで12ヶ月齢および15ヶ月齢で同様に新奇物体認識試験においてNLマウスに比べ認識の低下が観察された。そこで現在両モデルマウスに対して化合物1の効果を検討し、脳内炎症のマーカーやAβの蓄積に関与するBACE1やAPPなどのmRNAやタンパク質発現を解析している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでにRXRアゴニストSPF及びホオノキオール誘導体(化合物1)のin vitroにおける抗炎症活性を始めとする新規作用機序による生物活性を明らかにしてきた。現在はアルツハイマー病モデルマウスを使用して当初の計画通りにin vivoにおけるRXRアゴニストの効果について解析を開始している。ただし使用モデル動物の月齢と数を揃えることに時間がかかっており、計画より研究が若干遅れている。また、RXRアゴニストが興味深い作用機序により抗炎症作用を示すことを見出したことより、新たに低用量のリポ多糖を複数回投与してAD様モデルマウスを作製して、RXRアゴニストの効果を検討することを開始した。行動薬理学的な解析はモーリス水迷路に代え、新奇物体認識試験に変更して、in vivo及びin vitroの効果を関連付けて研究を進めている。当初の計画にあった新規RAR及びVDRアゴニストの探索研究においては新たな化合物は見つかっておらず、継続する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
アルツハイマー病モデルマウスC57/6-App<tm3(NL)Tcs>及び低用量リポ多糖複数回投与脳炎症誘発モデルマウスでの研究が進み始めたことより、RXRアゴニストのin vivoの効果及び作用機序の解析を精力的に進めて行きたいと考えている。また、RXRアゴニストの脳内への移行も臨床応用が考えた際に非常に重要な問題であり、RXRアゴニストの薬物動態についても新たに検討することを計画に追加した。さらに、RXRアゴニストとRARあるいはVDRアゴニストのin vivoに於ける併用効果について検討していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
アルツハイマー病モデルマウスの生育に時間がかかり、次年度に病態に及ぼす影響を検討することになったため、その解析に必要な消耗品費に使用することにしたため。
|