研究課題/領域番号 |
17K08357
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
金城 順英 福岡大学, 薬学部, 教授 (00161612)
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研究分担者 |
土橋 良太 福岡大学, 薬学部, 助教 (00369026)
中野 大輔 福岡大学, 薬学部, 助教 (30509641)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 糖鎖部機能解析 / クロシン / 腸内細菌による代謝 / 合成糖鎖配糖体 / 神経細胞保護作用 |
研究実績の概要 |
糖鎖を有す植物成分、配糖体は天然に広く分布し、生薬や天然薬物の代表的有効成分としてよく知られている。ところが配糖体を経口摂取した場合、配糖体糖鎖が腸内細菌により代謝分解され、非糖部のみ腸管から吸収される。そのため、従来、真の有効成分として、糖鎖部は不要と考えられてきた。一方、サフランの有効成分配糖体crocinは神経細胞保護作用の研究において、非糖部(crocetin)のみでは全く活性を示さず、糖鎖部分も重要な役割を果たすことが動物実験において明らかとなり、パラダイムシフト的知見が得られた。そこで、このような糖鎖の持つ生体内現象を分子レベルで解明するためcrocin糖部の腸内細菌による代謝および化学的変換位基づく代謝の変化、さらには糖鎖と神経保護作用の関連に着目し、本研究を行なっている。 腸内細菌の代謝については、代謝実験の条件等も確立し、被験物質であるcrocinの単離・精製を行なった。また、代謝生成物であると予想されるcrocetinの単離・精製も行い、これらより、代謝生成物同定や未知生成物の探索につながると考える。また、合成糖鎖については、crocin様化合物の合成を試みたが、最終生成物が単離・精製できなかった。そこで、収率改善のために反応条件の検討や、合成経路の再検討を行う。 この研究により、crocinの腸内細菌の代謝経路やその後の動態などを明らかになれば、配糖体糖鎖の必要性を確認でき、大きな意義があると考える。また、crocinにおいては神経保護作用が動物実験で明らかとなっているので、配糖体の神経細胞への関与も明らかになれば新しい創薬のターゲットになると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)腸内細菌による代謝の影響の解明について 被験物質であるcrocinの単離精製を行なった。まず、サンシシ果実を水で抽出し、その後Diaion HP-20、ODS、Silica gel 等各種クロマトグラフィーを用いて精製を行なった。単離した化合物についてはNMR・MSのスペクトルデータよりcrocinであると同定した。また、純度・量ともに代謝実験に耐えうるcrocinを確保した。 一方、代謝のための予試験を行い、本試験時の条件検討の知見とした。 2)化学的変換に基づく合成糖鎖配糖体の調製 a)Gentiobiose 誘導体の合成を試みた。糖供与体は、glucoseをアセチル化し、続いてチオクレゾール・3-フッ化ホウ素エーテル錯体存在下、チオグリコシドの合成を行なった。一方、糖受容体はglucoseのベンジル化を行い、その後、塩化亜鉛を触媒とし、6位の選択的アセチル化、続いて脱アセチル化を行い6位以外を選択的に保護した糖受容体として合成した。次に先ほど調製した糖受容体と糖供与体をNISを用いて塩化メチレン中反応させ、gentiobiose様のジサッカライドを合成した。この後、各種保護基を脱着し、gentiobioseの1位のみがOH基で残りがアセチル基で保護したgentiobiose誘導体を合成した。 b) crocetinとのカップリングを行なったが、crocetinの反応溶媒への溶解性が低く、収率がとても低い。そのため、温度や反応溶媒などの反応条件の再検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
29年度に実施を計画していたものを継続する。腸内細菌株による代謝の影響を確認する。理化学研究所微生物系保存施設(JCM)より購入した計29種類を用いる。代謝条件としては、GAM培地を用い、37℃、嫌気状態(N2 80%、CO2 10%、H2 10%)で行う。それらの代謝培養液よりOASIS HLBで代謝物を固相抽出し、HPLCを用いて分析を行う。まず、crocinの代謝を行い、配糖体の加水分解だけでなく、未知活性物質誕生の可能性を慎重に探る。続いて、合成糖鎖配糖体の代謝も合わせて行なう予定である。 一方、合成糖鎖の収率改善のために、アセチル基の脱保護の条件検討等を行う(アルカリ、酸、金属触媒、リバーゼ、エステラーゼなど)。保護基の再検討として、エステル保護基でなくエーテル系・シリル系などの保護基の検討も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
糖鎖の合成とcrocinの単離を主として実施したので差異が生じた。次年度は今年度実施した代謝実験や合成などを詳細に検討する必要があるので、それらに使用していく予定である。
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