研究課題
本研究課題ではテイーサックス病の原因酵素であるβ-hexosaminidase Aの安定性を高める実用的なシャペロン化合物の創製を目標にしている。今年度は、イミノ糖の母核を4員環から7員環まで変化させ環サイズの変化がβ-hexosaminidase Aとの親和性に与える影響を調べると共に親和性に必要なリガンド-アミノ酸の相互作用について解析を行った。その結果、β-hexosaminidase Aと親和性を示した化合物はいずれもArg178, Asp322, Tyr421 and Glu462と水素結合を形成すると共にTrp460とcation-π相互作用を有していることが明らかになった。このうちDMDP amideはβ-hexosaminidase Aに対しKi値が0.041 micro Mとこれまで報告されているシャペロンの中で最も高い親和性を示した。そこで、今回見いだしたDMDP amideと、既存の基質類似型シャペロンDNJNAcを選択し、水溶液中における動的構造を分子動力学(MD)シミュレーションにより解析した。その結果、Asp322と3位OH間およびGlu323と6位OH間の相互作用距離がβ-hexosaminidase Aとの安定的相互作用に重要であり、DMDP amideはこれら両相互作用の形成により活性中心の可塑性や揺らぎを軽減させていることが明らかになった。更に実用性の面でもDMDP amideは濃度依存的に患者由来G269S変異細胞のβ-hexosaminidase Aを上昇させ、正常細胞の43%まで酵素活性を回復させた。本研究成果はその実用性等が高く評価されOrg. Biomol. Chem誌の「2017 Hot Articles in Organic and Biomolecular Chemistry」に選定された。
1: 当初の計画以上に進展している
所有するイミノ糖ライブラリーを活用しスクリーニングを実施する中で、環サイズが異なる複数の化合物がβ-hexosaminidase Aに対し親和性を示すことを見いだし、これら親和性を示す化合物のβ-hexosaminidase A活性中心における認識に共通性が認められるのではとの発想に至った。その結果、β-hexosaminidase Aと親和性を示した化合物はいずれもArg178, Asp322, Tyr421 and Glu462と水素結合を形成すると共にTrp460とcation-π相互作用を有していることを明らかにできた。これら成果により、今後、シャペロン活性発現に必須なリガンド-アミノ酸残基との相互作用を加味したスクリーニングの実施を可能にし、より効率的な化合物デザインがおこなえると確信している。また、患者由来G269S変異細胞に対して正常細胞の43%までβ-hexosaminidase A酵素活性を回復させた本成果は、国内外で高く評価されている。
本研究の目的である実用的なシャペロン化合物を創製するためには、β-hexosaminidase Aに対しいかに高親和性を示すようデザインするかが鍵となる。今年度は所有するイミノ糖ライブラリーのうち、できるだけ環サイズにバラツキが出るよう化合物を選びスクリーニングを実施した。その結果、Arg178, Asp322, Tyr421 and Glu462と水素結合を形成し、Trp460とcation-π相互作用を持つ化合物がβ-hexosaminidase Aに対し高親和性を示す化合物として見いだされた。これら知見は、リソソームに局在する他の酸性グリコシダーゼと異なり、β-hexosaminidase Aが基質であるピラノースとは異なる母核構造を持つ化合物に対しても柔軟に許容することを意味しており、従来までのシャペロン化合物にはない、より多様な構造変換(化合物デザイン)が可能であることを意味している。更に化合物を用いた実測 (Wet系)とタンパク-リガンド・ドッキングシミュレーション (Dry系)を組み合わせた系統的な解析の結果、β-hexosaminidase A活性中心には糖部分を認識するポケットの他に脂溶性アミノ酸から構成される全く別のポケットが存在していることを世界に先駆けて明らかにした。次年度は、これら先駆的な知見を更に発展させ、水素結合を中心とした従来までの糖認識性の強化に加え、新たに見いだした脂溶性ポケットに対する認識性も併せ持つ化合物デザインを検討する予定である。
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Organic & Biomolecular Chemistry
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