研究課題/領域番号 |
17K08364
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
兒玉 哲也 名古屋大学, 創薬科学研究科, 准教授 (00432443)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 人工核酸 / 核酸医薬 / ヌクレオシド / ヌクレオチド / 分子設計 / オリゴヌクレオチド / 有機合成化学 / 医薬化学 |
研究実績の概要 |
本研究では、核酸の糖部立体配座とリン酸ジエステル結合部の構造を同時に制御した人工ヌクレオシドを化学合成し、それが核酸高次構造の熱的安定性や分解酵素耐性などに与える影響を比較することで、核酸創薬に資する素材を創出する。平成29年度は、ヌクレオシド糖部C5’-N3’間に架橋を施すことで3’エンド型糖部立体配座を強固に固定したヌクレオシドを設計し、人工核酸創出に向けて合成を開始した。これにより生物学的に安定なP-N結合を合わせてもつ人工核酸の創出を目指す。 まず、ジアセトングルコースを出発原料とし、3位のアジド化と1位へのチミン塩基の導入を行った。アジド化では種々条件を検討したが、40%程のベータ脱離体の生成が抑制できず60%の収率に止まった。続いて、2'位のデオキシ化と3'位アジド基の還元をラジカル還元条件で実施し、およそ50%の収率で3'アミノ-2'デオキシ体へと誘導した後、6'位と3'位アミノ基との間で結合を形成することで、C5’-N3’間に架橋をもつチミジンアナログの合成に成功した。NMR解析から、合成したC5-N3間に架橋をもつ2デオキシリボース骨格が設計通りに3’エンド型に固定されていることを明らかにした。この骨格はこれまでに報告されていない新規骨格であり化学的に重要と考えている。 続いて、このアナログのオリゴヌクレオチドへの導入を目指し、ホスホロジアミダイト体ならびにH-ホスホナート法を用いた二量体合成を検討し、ホスホロアミダート構造で二量化したアミダイトブロックの合成に成功した。最後に、合成した二量化型アミダイトブロックを用いてオリゴヌクレオチド合成を実施したところ、目的のオリゴヌクレオチドは痕跡量しか得られなかった。得られたオリゴ核酸は核酸塩基が脱離した分解物であり、アミダート骨格は導入されていることから、核酸合成のいずれかの工程で脱塩基したと推定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は平均すると順調に進行していると考えている。まず、化学合成の初期段階では報告されていた手法を用いたが、記載されていなかった脱離反応が予想以上に競争することがわかった。そこで反応条件を再検討し、60%収率まで向上させることに成功した。さらに、ラジカル還元反応を実施した際には、ラジカル反応を経由しない環化反応が競争したことから経路の再検討を考えたが、条件を詳細に検討することで60%の収率で目的の還元反応を進行させることに成功した。加えて、設計したC5-N3間に架橋をもつ2-デオキシリボース骨格が非常にひずんでいることと推定されたため、その合成効率を懸念していたが、炭酸セシウムで処理することで90%以上の高収率で目的の縮環骨格の構築に成功した。いずれも、実験の結果を元に詳細に検討を積み重ねることで当初の合成経路を大きく変更することなく合成を達成できたことから、順調に進展しているであると考えている。 また、オリゴヌクレオチドへの導入についても、ホスホロジアミダイトと二量体化したアミダイトを用いる二つの手法を検討し、後者の合成に成功している。前者が成功すればより簡便にDNAへの組み入れが可能となるため、さらなる検討が必要とは考えているが、通常のDNA合成法であるホスホロアミダイト法を用いることができる二量体化したアミダイトブロックの合成は、前者の合成がうまく行かなかった時の別経路として当初のから想定していた計画であり、これも順調に進んでいると考える根拠である。 残念ながら、定法となっているDNA合成法を用いては、合成したアミダイトをオリゴ核酸中に導入することはできなかったが、いずれの段階に問題があるのかを明らかにすることで解決できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、まずは引き続きこのC5’-N3’間に架橋をもつチミジンアナログのオリゴヌクレオチドへの導入の検討から始める。DNA合成過程のとの工程で分解が進行しているのかを明らかにできれば、改善する方針を定めることができると考えられる。合わせて、平成29年度に合成を達成できていないホスホロジアミダイトの合成も検討する。この合成が達成できれば、オリゴ核酸の合成はより簡便になると期待できる。なお、これまでの結果から、このC5’-N3’間に架橋をもつチミジンアナログの分解がおそらく酸性条件下での分解であると考えられるので、核酸合成で用いる条件検討は、酸性試薬の変更などを中心に進めることを想定している。 一方で、リン酸構造のさらなる改変を進める検討を開始する。これまでは糖部立体配座の制御に重点を置いた設計に基づいており、ホスホロアミダート骨格はその設計に合わせて組み合わせていたが、今後はリン酸の構造制御に重点を置き、より精密な分子設計を行う。この際、リン原子上の不斉は生じるがジエステル構造化することで中性化することとし、そのオリゴ核酸に与える影響をまず明らかにすることで、研究の展望を見ることとする。ただし、分子設計については、これまでの実験結果から目的の骨格が不安定であることが濃厚となってきたため、環構造をより安定と考えられる6員環に変更することも念頭に入れ、検討を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
オリゴ核酸合成の検討において、定法の核酸合成条件で合成しようとすると目的分子の分解が極めて顕著であることがわかった。これにより、試薬費用が比較的高価である核酸合成の検討を重ねることができなかった。これが当初予定していた予定額と使用額とで差が生じた理由である。引き続き本研究項目を実施するので、本項目の実施にはこの差額を優先して使用するのは言うまでもない。
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