研究課題
本研究では、核酸の糖部立体配座とリン酸ジエステル結合部の構造を同時に制御した人工ヌクレオシドを化学合成し、それが核酸高次構造の熱的安定性や分解酵素耐性などに与える影響を比較することで、核酸創薬に資する素材を創出することを目的とした。昨年度までに、糖部C5’-N3’間またはC5’-O3’間を架橋して3’エンド型に糖部立体配座を固定し、リン酸ジエステル結合部をホスホロアミダートとしたヌクレオシドの合成を達成したが、効率的なオリゴ核酸合成が困難であった。そこで本年度は、新たに糖構造を6員環状にした新たなチミジンアナログを設計し、合成した。まず、市販のグルコースを出発原料として6工程でアロース型ヌクレオシドへと誘導したのち、6’位でのアリル化を経たC2増炭、続けて4‘位との環化反応により目的の架橋型ピラノシドの骨格構築に成功した。さらに、2’位のラジカル的デオキシ化と6’位の立体反転を経て目的のヌクレオシド合成に成功した。合成したヌクレオシドのオリゴ核酸への導入はホスホロアミダイト法により実施し、目的のオリゴ核酸を約3%の収率で得ることに成功した。本年度合成したヌクレオシドは、昨年度まで合成していた5員環状アナログと比べて極めて化学的に安定であったが、核酸の熱的安定性は低くなる傾向があることが分かった。なお、別途安定な二重鎖形成と分解酵素耐性を示すことを明らかにしていたセレノ含有核酸のアデノシン類縁体を、対照実験に用いるために合成した。本研究を通して、核酸糖部立体配座を固定するためにを歪んだ5員環とし、かつリン酸ジエステル結合部の構造を同時に制御した場合には、オリゴ核酸合成に課題は残るものの、核酸創薬に用いることのできる性質を有している可能性を示すことができた。一方で、6員環状アナログは化学的には安定ではあるが、その性質改善にはさらなる精密設計が必要であることが強く示唆された。
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