研究課題/領域番号 |
17K08366
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
小郷 尚久 静岡県立大学, 薬学研究院, 講師 (20501307)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | デュアル作用 / プロドラッグ / 構造活性相関 / 抗がん / システイン誘導体 / GGT / KSP / 構造最適化 |
研究実績の概要 |
キネシンモータータンパク質Kinesin Spindle Protein (KSP)を標的とした抗がん剤開発では、これまで複数の阻害剤が臨床入りしたが好中球減少などの正常細胞への副作用が課題でいずれの臨床開発も進んでいない。本研究目的は、これまで創製した高活性オリジナルKSP阻害システイン誘導体を基本骨格に、がん細胞で高発現している酵素の基質や阻害薬を結合させてデュアル作用を持つ副作用低減を指向した次世代抗がん剤の創製である。平成30年度は、KSP ATPase及び細胞増殖阻害活性(HCT-116)が共にIC50値ナノモルレベルのS-trityl-L-cycteine誘導体1とKSPとの共結晶構造解析を論文化、更に1に多くのがん細胞で高発現している gamma-glutamyltransferase (GGT) の基質部分構造を導入した新規化合物の合成と抗がん活性プロファイル評価を進めた。まず1のシステイン部をGluCysに変換した誘導体2は、GGT存在下1に変換されたことから基質として認識されることを確認。細胞系評価ではGGT発現量が多い細胞(A549)ほど細胞増殖阻害活性が強くなり、更に2のKSP阻害活性は 1 と比べ大幅に減弱することも分かった。すなわち2は、がん細胞選択的にKSP阻害に基づく細胞毒性を示すプロドラッグとして機能することが判明した。一方これまでのSARsから、誘導体3はKSP阻害以上に強力な細胞増殖阻害活性を示し、KSPとは別の標的タンパクの存在が示唆された。そこで先の共結晶情報を基にしたin silico解析により相互作用に影響しない官能基として3のカルボキシ基を同定し、本基を起点としたリンカー導入と続く磁気ビーズへの固定化を行った。現在、細胞内KSP捕捉をウエスタンブロットにより確認でき、今後未知標的タンパク質同定を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、合成した化合物2のin vitro抗がん活性プロファイル解析とシステイン誘導体の更なる構造最適化によるKSPとは別の作用を持たせた新規誘導体の合成と評価を行う計画であった。2のプロファイル解析に関しては、プロドラッグとしての機能評価を概ね行うことができた。しかし、実際にがん細胞表面に発現しているGGTとの反応性(親化合物への変換)をより詳細に解析するため、今後GGT siRNA処理した細胞に対する化合物2の効果を確認する必要がある。またできればin vivo評価による抗がんプロドラッグとしての評価を行いたい。GGT以外の作用を持たせた新規誘導体合成に関しては、化合物3を端緒に今年度明らかとした1-KSP共結晶構造と統合計算ソフトMOEを活用することにより、3のKSP阻害活性を保持しつつ別の標的タンパク同定を試みている。磁気ビーズへの固定化では、固定化前の3-conjugateリンカー化合物に強い細胞増殖阻害活性を確認できており、本ビーズでKSP以外の候補タンパク同定を達成したい。また昨年度合成したシステイン部のSをCに変換した化合物への合成展開は、化合物3にも応用可能であるため、より新規性の高いデュアル作用抗がん化合物の創製を継続して行う必要がある。全体的には、今年度計画した研究項目は概ね着手することができており、全体3年計画中の2年目に予定していた計画通りに進捗を達成できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
GGTに認識されるKSP阻害化合物2については、そのin vitroプロファイル解析を更に進める。具体的には、GGT発現量の異なる種々のがん細胞への評価と並行してGGT siRNAを処理した細胞に対する化合物2の効果を評価し、親化合物1との比較によるプロドラッグとしての機能評価を行う。次にKSPとは別の細胞内タンパクを標的としたデュアル作用薬の創出に関しては、今回見出した化合物3の標的同定を進めその標的と細胞増殖阻害(or細胞死)との関連評価、続く構造活性相関研究を進める。いずれの誘導体もオリジナルKSP阻害システイン誘導体を基に展開しているため、今後も高活性新規誘導体の合成と評価は精力的に継続する。特にがん微小環境・代謝に関わる酵素に対する基質や既存薬を結合させたデュアル作用薬をデザイン合成し、がん細胞認識能を持ち且つKSP阻害活性のある新規誘導体合成に注力する。これらの研究によりがん細胞を特異的に認識する新規システイン誘導体の可能を追求していく。
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