研究実績の概要 |
Kinesin Spindle Protein (KSP)を標的とした抗がん剤開発では、複数の阻害剤が臨床入りしたものの好中球減少など正常細胞への副作用が課題でいずれの臨床開発も進んでいない。本研究目的は、これまでに創製した高活性オリジナルKSP阻害システイン誘導体のがん選択性向上を目指し、その基本骨格にがん細胞で高発現している酵素の基質を融合させたデュアル作用を持つ次世代抗がん剤の創製である。令和元年度はKSP ATPase及び細胞増殖阻害活性共にIC50値nMレベルのS-trityl-L-cycteine誘導体とKSPとの共結晶情報を基に、誘導体と相互作用するKSPのアミノ酸残基をより詳細に解析するべくMolecular dynamics(MD)解析を行った。その結果1のアミノ基とKSP のGlu116, Gly117残基との水素結合の方が1のカルボキシル基とArg221のそれよりも相互作用寄与が大きいことを究明した。そこで、多くのがん細胞で高発現している gamma-glutamyltransferase (GGT) の基質(グルタチオン)部分構造に着目して、1のアミノ基をGlu化した新規化合物2をデザイン・合成した。2のKSP阻害活性は1と比べ大幅に減弱したことから、上述のアミノ基の重要性を明らかとし、更に2はGGT存在下でのみ1へ代謝されることをLCMSで確認することができGGTの基質となることも見出した。siRNAでGGTノックダウンしたヒト肺胞基底上皮腺癌A549細胞株では、2の増殖阻害活性はWTと比べ有意に低下することも判明した。その他のがん細胞株でも2の増殖阻害活性は1と比べ減弱し、その減弱比率はGGT発現量と逆相関した。以上の結果から、2はがん細胞選択的に細胞増殖阻害作用を有するプロドラッグとして有望であることが示唆された。
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