近年、抗寄生虫薬に対する耐性種の出現が問題視され、従来とは作用機序の異なる新規抗寄生虫薬の開発が急務である。申請者は、新規作用点としてエネルギー代謝に関わるcomplex IIに注目し、これまでにこのcomplex IIを強力に阻害するatpenin A5の全合成を達成している。しかしながら、このatpenin A5は哺乳類のcomplex IIに対しても阻害活性を示すという欠点を有しており実用化には至っていない。そこで本研究は、寄生虫のcomplex IIを選択的に阻害する新規誘導体の理論的な設計並びに構造活性相関研究により、atpenin A5を基盤とした寄生虫選択性の高い新規抗寄生虫薬の創製を目指している。2017年度は、哺乳類及び寄生虫complex IIとatpenin A5との共結晶X線構造解析の結果より、新規誘導体の寄生虫選択性を向上させるための化学変換を行う部位として最も有望と考えられるatpenin A5側鎖2位に特化した構造活性相関研究を行い、ベンジル基、アリル基、ナフチルメチル基等を導入した新規誘導体を合成し、それらの寄生虫及び哺乳類のcomplex IIに対する阻害活性を評価した。その結果、ベンジル基を導入した新規誘導体が、atpenin A5と比較してcomplex II阻害活性は減弱するものの、寄生虫選択性が僅かながら向上することを見出した。そこで2018年度は、更なる最適化を目的にベンジル基のフェニル基上に置換基を有する誘導体を種々合成し阻害活性を評価した。その結果、2位ベンジル誘導体よりも寄生虫選択性が更に向上した新規誘導体を見出す事ができた。さらに、2019年度は、in silico分子設計により提案された誘導体合成にも着手した。その結果atpenin A5よりも大きくcomplex II阻害活性の低下が認められたものの、僅かながら寄生虫に対して種選択性が向上した新規誘導体を見出す事に成功した。
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