研究実績の概要 |
アーユルベーダ薬物”Salacia”から単離されたスルホニウム塩 , salacinol (1) は糖尿病治療薬acarboseやvogliboseに匹敵する強力なα-グルコシダーゼ阻害活性を示す. これまでにこれらスルホニウム塩の全合成のみならず構造活性相関研究が盛んに行われている. 我々は1の3'-O-ベンジル誘導体類 (2) がin vitroで1の約40倍強い活性を示すことを明らかにしている. 合成には, もっぱら5員環チオ糖 (3) と環状硫酸エステル (4) や スルホン酸エステル (5) 等を用いるS-アルキル化が鍵反応として用いられているが, 4, 5の分解により反応系が強酸性になるため, 生成物あるいは原料の分解を伴い, 反応の再現性に欠ける。その上, S-アルキル化のジアステレオ選択性も良好でなく, 目的化合物の収率が極めて低く, in vivo試験用サンプルの大量供給法が確立されていない. そこで, スルホニウム塩の効率的かつ立体選択的合成を志向して, 3とエポキシド (6) とのS-アルキル化を鍵反応とするスルホニウム塩構築法検討した. その結果, 本鍵反応が高ジアステレオ選択的かつ高収率で進むことを見出す (90%, dr, α/β= ~ ca. 26/1) とともにスルホニウム塩の大量合成法の確立に成功した. さらに, 本反応を高活性サラシノール誘導体 (7) の合成にも適用し, 7のスケールアップ合成を達成した (~950 mg, ~88%, dr, α/β= ~ ca. 18/1). マウスを用いたin vivo試験では, 7を0.3 mg/kgの投与したところ, 30分の血糖値の上昇の程度が1を投与されたマウスよりも著しく強く抑制されることを明らかにした.
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