側鎖間架橋ヘリカルペプチドの完成形を模索する中で二つの知見を見出した。 側鎖間架橋ヘリカルペプチドが生細胞だけでなく出芽酵母にもエンドサイトーシスによって取り込まれることを既に見出していたが、酵母用の染色試薬を併用すると染色試薬の挙動に大きく影響を与えることがわかった。用いた染色試薬は液胞用の染色試薬である。出芽が起こり酵母が増えていく際に、染色試薬も分配されていくのが通常であるが、側鎖間架橋ヘリカルペプチドが存在すると液胞の一部の試薬濃度が濃いままであった。側鎖間架橋ヘリカルペプチドはミトコンドリア表層に結合するように設計されており、実際ミトコンドリア表層に局在していることが確認された。この結果は幾つかのことを示唆している。 一つは酵母に限らず生細胞の染色試薬はその機能に影響を及ぼしている可能性があり、染色試薬の使用についてもっと考慮しなければならないということである。もう一つは酵母におけるミトコンドリアと液胞との間で何らかのコミュニケーションがあるのではないかというものである。少なくとも膜組成に関しては何らかのやり取りがあり、側鎖間架橋ヘリカルペプチドと染色試薬が共存することによって変化を生じさせたことは間違いない。今後、様々な染色試薬と側鎖間架橋ヘリカルペプチドを共存させることでどのような影響が出るのかを評価していく予定である。 これまではペプチド鎖を人工ユニットで架橋していたが、ペプチド鎖自体を架橋剤として使えるのでないかと考え、予備的実験を行った。具体的には核酸用の架橋剤である。染色体構造を解析する際に汎用されている架橋剤はホルムアルデヒドである。その分子サイズの小ささから架橋できる範囲は限定されてしまう。そこでペプチド鎖の側鎖に光反応部位を二か所導入し、それを架橋剤として遺伝子の構造解析として展開していく予定である。
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