研究実績の概要 |
本研究の目的は、N-リン酸化タンパク質の受容体タンパク質を見つけ出す方法論の開発であった。創薬ターゲットになりうる「新規情報伝達系」の発見をめざした。リン酸エステルであるチロシン等のリン酸化は、キナーゼを触媒として、ATP から直接酸素原子にリン酸残基が移る。一方ヒスチジン等のN-リン酸化体は「一時的な中間体」として存在し、受容体タンパク質の酸素原子に受け渡すと考えられている。生理学的な役割を担うのは後者であり、その解明なくしては、情報系の理解は進まない、と考えた。本研究では、この反応プロセスを化学的に模倣するN-リン酸化アミノ酸の安定アナローグを含むペプチドと反応性官能基を利用し、受容体タンパク質を見つける。この結果をもとに新しい情報伝達系の確立を目指した。 本研究は、3つの段階に分かれていた。すなわち、a 化学合成を主とする段階、b 方法論の確立と確認段階、c ヒト細胞での情報伝達系を確立する段階である。研究期間内にa, b, c のすべての段階を順次確立する予定であった。aにおける、新規安定ホスホヒスチジン誘導体を複数設計し、合成に成功した。また、スケールアップも行った。さらにライブラリー合成法自体は確立できた。しかし、bにおいて、リン酸誘導体の安定性と細胞膜透過性の問題に直面した。本研究には実際の生化学実験に用いることのできるプローブの創製が必要であった。多くを試みたものの、期間内にこの問題を解決できなかった。 しかし、大きな成果も上がった。本研究課題で合成した化合物の中から、ある感染症プロジェクトにおいて、強い活性を示す新規化合物を発見した。その作用機序は新規である可能性が高い。この化合物は単なるヒット化合物ではなく、リード化合物といえる。この発見は、本研究からしか、達成できないものであった。この発見を創薬研究へと育てていく。すなわち、本研究課題のスピンオフ・プロジェクトである。
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