ヒ素はがんや心血管疾患など様々な疾患リスクを上昇させる環境汚染物質である。一方、急性前骨髄性白血病の治療薬として利用されるなど抗腫瘍活性も有しているが、そのメカニズムは不明な点が多い。2019年度は、がん細胞としてヒト子宮頸がん由来HeLa細胞を用いて、亜ヒ酸毒性発現機構におけるペントースリン酸経路関連酵素の関与について検討した。HeLa細胞を亜ヒ酸で処理し、ペントースリン酸経路関連酵素のmRNAレベルを調べたところ、酸化的段階関連因子(PGLSおよび PGD)のmRNA発現レベルはほとんど影響を受けなかった。一方、非酸化的段階関連因子(RPIAおよびTKT)のmRNAおよびタンパク質の発現レベルは、亜ヒ酸の処理濃度および処理時間依存的に低下した。したがって、亜ヒ酸はペントースリン酸経路の非酸化的段階関連因子の発現を選択的に抑制すると考えられる。次に、HeLa細胞におけるペントースリン酸経路の非酸化的段階と細胞増殖との関係を調べるため、RPIAまたはTKTのsiRNAを導入したHeLa細胞の生細胞数を測定した。その結果、RPIAのノックダウンはHeLa細胞の生細胞数にはほとんど影響を与えなかったが、TKTのノックダウンはHeLa細胞の生細胞数を有意に低下させた。また、亜ヒ酸処理したHeLa細胞において、TKT発現レベルの低下は生細胞数の低下に先行して引き起こされることが確認された。以上のことから、亜ヒ酸は非酸化的段階関連因子であるTKTの発現を抑制することによって、HeLa細胞の増殖を阻害している可能性が考えられる。今後、亜ヒ酸によるTKTの発現抑制機構をさらに検討することで亜ヒ酸による抗腫瘍効果メカニズムの解明に繋がることが期待される。
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