本研究では、ロタウイルスの宿主特異性が、ウイルス結合糖鎖の違いに由来するものであると仮説をたて、いくつかの生ロタウイルスの認識糖鎖の構造を調べた。その結果、一つのウイルスが複数の糖鎖構造と結合していることを明らかにした。ウイルス種によって結合糖鎖の種類が異なるが、N-グリコリルノイラミン酸を有する糖鎖、フコシル化糖鎖、そして硫酸化糖鎖と結合することは共通していた。一方、他の研究グループのウイルス中和検討により、ロタウイルスは感染対象となる細胞の種類が異なると、細胞上で結合する分子を変えている可能性が示された。以上のことから、ロタウイルスは、宿主細胞が発現している糖鎖の中から都合の良いものを選択し、結合するのではないかという新たな考えに至った。この考えが正しければ、ロタウイルスの感染に重要な細胞上の糖タンパク質や糖脂質等が複数種存在することになる。この可能性を証明するため、我々は宿主細胞におけるロタウイルス結合糖鎖のキャリア分子の特定と、その発現量の測定に着手した。しかしながら、フコシル化糖鎖や硫酸化糖鎖のキャリア分子を網羅的に特定し、同分析系でその発現量を比較できる手法がないため、本年度はそれらの分析手法の確立を行った。糖タンパク質を断片化や、糖ペプチドの濃縮手法を検討すると共に、糖ペプチドのさらなる分画や定量を達成するため、ペプチドの蛍光識化法について検討した。その結果、分析に適した標識化法及び、糖ペプチドの分離分析法を確立した。本法により、標的糖鎖を有するペプチドを単離し、タンパク質の同定及び定量が可能になった。分析系の確立で研究機関終了となったため、今後本手法を用いて、複数のロタウイルス感染用のモデル細胞や感染部位となる回腸組織中のウイルス結合糖鎖のキャリア分子の特定及び発現状況を解析し、ウイルス感染性を決定する重要な分子を特定したい。
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