本研究では新規S1P輸送体MFSD2Bの迅速な機能解析系の構築およびS1P輸送体阻害剤のスクリーニングに必要なハイスループットS1P輸送体活性測定系の確立を目指している。蛍光標識したS1PであるNBD-S1Pを用いたS1P輸送体の活性測定では、2019年度までに、HEK293細胞のスフィンゴシンキナーゼ安定発現株のabcc1遺伝子欠損株(HEK293/SphK abcc1 KO)において、S1P輸送体であるMFSD2BとSPNS2の活性測定が可能であることを確認し、NBD-S1PのキャリアとしてApoMが有用であることを見出した。一方で、HEK293細胞は細胞培養用プレートへの接着力が弱く、剥がれやすいため、NBD-S1P輸送活性測定時の値のバラツキが大きくなってしまう問題点も確認された。2020年度は、HEK293細胞よりも細胞培養用プレートへの接着力が強いCHO細胞のスフィンゴシンキナーゼ安定発現株(CHO/SphK細胞)を使用し、細胞からのNBD-S1P放出におけるabcc1遺伝子欠損の影響について解析した。CRISPR/Cas9システムによりCHO/SphK細胞のabcc1遺伝子を欠損させたところ、CHO/SphK細胞からのNBD-S1P放出量は減少し、細胞内NBD-S1P量が増加したことから、ABCC1はCHO/SphK細胞においてもNBD-S1Pを輸送することが分かった。この細胞に、S1P輸送体であるMFSD2Bを発現させることで、MFSD2BのNBD-S1P輸送活性が測定可能であることを明らかにした。
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