二成分転写制御系KdrABによる多剤排出ポンプKrxDの発現制御及びグローバルレギュレータとしての働きについて調べることを目的として研究を実施した。次世代シーケンサーを利用した発現解析を行った結果、kexDとその隣接領域に存在する遺伝子の発現が上昇していることが明らかとなった。この結果は過去の実験結果と矛盾しておらず、この実験系の信頼性をサポートするものである。 しかし、その他の推定の多剤排出ポンプ遺伝子などの発現上昇/低下は検出されなかった。 kexDの他、リン酸基の付加やリン酸化体の輸送に関係する遺伝子の発現上昇が認められた。これらは大腸菌においてリン酸輸送に関わると報告があるphnEDC、ホスホン酸代謝酵素であるC-Pリアーゼ複合体をコードするphnGHIJKLMに相当する肺炎桿菌遺伝子であると推定される。 これらの遺伝子と抗菌薬多剤耐性化の間に関連性があるかどうは現時点では不明であるが、KdrABがリン酸化を受けることにより転写制御を行う二成分転写制御系であることから、細胞内でKdrAのリン酸供給などに関係している可能性が考えられる。また、ポリミキシンB耐性因子MCR-3との相互作用が示唆されている arnBCADTEF オペロン(Adv Sci (Weinh). 2021 8(18): 2101336.)。の発現上昇も認められた。従って、KdrABはポリミキシンB耐性に重要な役割を果たしている可能性が考えられた。 しかし、我々の変異株でポリミキシンBの最小生育阻止濃度を測定した結果、ポリミキシンB耐性の上昇は認められなかった。 本研究により、二成分転写制御系KdrABが発現上昇させる多剤排出ポンプはKexDにほぼ限定されることが明らかとなった。さらに、KdrABによりKexDとその隣接領域の遺伝子群、リン酸利用系の遺伝子群が発現上昇することが明らかとなった。
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