研究課題
本研究は、前回の科研費研究(基盤C, No. 23590161, H26~28)で得た知見が基になっているので、引き続きデータの精査や評価系のブラッシュアップを行いながら計画された研究に取り組んだ。BALB/c♀マウス(6週齢)に麻酔下で、RSウイルスを経鼻感染する1, 3および5日前に不活化肺炎球菌標準株を経鼻投与した。感染1日後に取得した肺胞洗浄液(BALF)中のTNF-αレベルは不活化肺炎球菌の投与により強く抑制され、その際に幼若化したような浸出細胞が塗抹標本の観察から得られた。そこで、これらの生細胞にPIを取り込ませ、FACS解析により核酸合成の亢進を確認した。また、不活化肺炎球菌自体を超音波で破砕した後、RSウイルス感染初期への作用を検討した。その結果、超音波破砕サンプルではBALF中のTNF-α抑制活性が顕著に低下し、不活化肺炎球菌の作用には菌体の構造保持が重要であることが明らかとなった。不活化肺炎球菌の生物学的な作用に関して、これまで肺炎球菌を不活化する際に用いた中性ホルマリンのキャリオーバーが影響した可能性が否定できなかった。そこで、ホルマリン測定用のシッフ試薬を用いて、RSウイルス実験に用いた不活化肺炎球菌サンプルのチェックを行った。これにより、ホルマリンの混入を否定することができ、今後の肺炎球菌の不活化処理を今まで通りの調製法で行うこととした。より活性の高い肺炎球菌サンプルを得る目的で、抗原性や薬剤耐性情報が異なる4種類の肺炎球菌株をATCCより購入した(ATCC 6303, 6314, 10813 and 700670)。それぞれ5%羊血液寒天培地で培養し、上述のように処置して肺炎球菌サンプルとした。現在、感染実験への利用を開始している。
3: やや遅れている
複数の不活化肺炎球菌サンプルの調製が遅れたためである。平成29年度は研究期間の前半は評価系の検証を行い、後半に複数の肺炎球菌サンプルを取得してRSウイルス感染実験を実施することにしていた。評価系の検証においては、不活化方法に問題がないことが再確認できた。また菌体の構造を保持することが、RSウイルス感染による初期炎症抑制に重要であることを見出した。一方で、本研究では当初、慈恵医大・中央検査部にて分離した肺炎球菌の臨床分離株を使用することにしていたが、それぞれの肺炎球菌の抗原性情報や遺伝子解析データの取得時期がまちまちで、それらの情報の信頼性などに不安が生じた。そこで、米国細胞バンク(ATCC)より新たに4種類の肺炎球菌株を購入することにした。そのため、肺炎球菌の入手、培養および不活化調製に時間を要した。なお、平成29年度末時点で必要な不活化肺炎球菌サンプルの調製を終了した。
30年度前半は、5種類の不活化肺炎球菌サンプルを用いて、RSウイルス感染初期(感染1日後)でのBALF中のTNF-α産生抑制活性の最も強い株を選抜する。そして選抜された不活化肺炎球菌サンプルを利用して、感染ピーク時(感染5日後)でのRSウイルス肺炎形成に対する効果について、CCL5など肺炎マーカーの変動と肺の病理組織学的な手法で検証を行う。30年度後半は、RSウイルス感染初期の炎症性サイトカインの抑制が逆に肺炎増悪化に繋がる酸化チタンを対照物質に用いて、感染初期のサイトカイン・ケモカインの変動についてタンパクアレイで比較解析を実施する。さらにBALF中の浸出細胞の相違をライトギムザ染色やFACS解析で検討する。これらの実験からRSウイルス肺炎の抑制の鍵となる主たるファクターや標的細胞の絞り込みを行う予定である。
論文の雑誌掲載(BIO Clinica)が2月になり、その論文掲載料金が予定した額より低かった。そのため、年度の終わりになって剰余金が生じた。この分は、30年度の消耗品(ELISA kit)の購入に充てることとしている。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
BIO Clinica
巻: 33 ページ: 245-250
Journal of Toxicological Sciences
巻: 42 ページ: 789-795
10.2131/jts.42.789
http://biochem-kuhw.org/