血液網膜関門(blood-retinal barrier)では、栄養物や薬物を基質とする新規輸送機構が複数見出され、その基質特異性の創薬への応用が期待されている。本研究では、血液網膜関門カチオン性薬物エフラックス機構に着目し、その機能特性や分子機序の解明を目的とした。 「新規薬物輸送機構と機能特性」に関する解析では、in vivo解析としてmicrodialysis法やretinal uptake index法を実施し、多様な生理活性を有するカチオン性化合物であるputrescineを基質とするエフラックス輸送機構が血液網膜関門に存在することが示唆された。 さらに、内側および外側血液網膜関門のモデル細胞を用いてin vitro解析を実施し、内側および外側血液網膜関門を介したputrescine輸送が担体介在輸送であることが示唆された。発現解析の結果に基づくと、内側および外側血液網膜関門には複数の有機カチオントランスポーター(OCTN1/SLC22A4やOCTN2/SLC22A5、PMAT/SLC29A4、MATE/SLC47A1など)の発現が示唆された。しかし、in vitro阻害解析や遺伝子クローニングおよび遺伝子発現解析を実施した結果、血液網膜関門においてputrescineエフラックス機構は未知のトランスポーター分子によって担われることが示唆された。 以上に加え、本研究では、新たな解析手法として蛍光基質を活用した輸送解析を試み、これによって、血液網膜関門を介したカチオン性薬物輸送の網膜-循環血液間輸送がin vivoおよびin vitroレベルで視覚的に示された。本手法は、血液網膜関門におけるカチオン性薬物のlysosomal trapping機構の解析にも有用性が示されるとともに、vitamin B12輸送機構の解明に活用された。
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