本年度は、ヒトiPS細胞から小腸上皮細胞への分化の促進、または、薬物動態学的機能の獲得に有用な分化誘導方法の探索を行った。小腸上皮細胞への分化は、これまでにわれわれが確立した方法に基づいて行い、その分化誘導過程で上記の検討を行った。その結果、これまでにわれわれが確立した方法よりも、さらに小腸上皮細胞への分化を促進することを示唆する結果を得ることができた。そこで、ここで得られた結果をもとに分化誘導条件の最適化を行った。小腸上皮細胞への分化の程度は、分化誘導終了後に腸管マーカーや薬物動態関連遺伝子の発現レベルをリアルタイムPCR法により解析を行うことで評価したところ、これらの遺伝子発現レベルの上昇が認められた。また、小腸において主要な薬物代謝酵素であるCYP3A4の活性の上昇も認められた。以上のことから、この分化誘導法はヒトiPS細胞から小腸上皮細胞への分化をより促進することが示唆された。本年度得られた知見は、小腸上皮細胞への分化誘導法の最適化および効率化を進めていくうえで、有用な情報であるものと考えられる。今後は、遺伝子発現レベルだけでなく、薬物代謝酵素や薬物トランスポーターの活性などさまざまな薬物動態学的機能の定量的な解析を進めていくことを考えている。そうすることで、ヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞の機能的な特徴がより詳細に明らかとなり、薬物動態試験におけるこの細胞の有用性の評価も可能になるものと思われる。
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