研究課題/領域番号 |
17K08424
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
鈴木 小夜 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 准教授 (90424134)
|
研究分担者 |
中村 智徳 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (30251151)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 胆汁酸 / 薬剤反応性 / がん / 治療個別化 |
研究実績の概要 |
これまでに、デオキシコール酸(DCA)、ケノデオキシコール酸(CDCA)による細胞増殖及び抗がん剤感受性への影響を明らかとなった慢性骨髄性白血病細胞株K562のDCA/CDCA曝露前後の関連遺伝子発現量の変化について検討した。DCA曝露はシクロオキシゲナーゼ(COX)-2、CDCA曝露はCOX-1及びbrain and reproductive organ-expressed (BRE) mRNAの経時的発現プロファイルを前にシフトさせる傾向が認められ、50μM CDCAの72時間曝露はBRE mRNA発現量を非曝露細胞よりも有意に増加させた。DCA/CDCAの48時間、2週間曝露でCOX-1mRNAは増加傾向を示したがCOX-2 mRNAは著変なかった。胆汁酸による細胞増殖促進や抗がん剤感受性低下にBRE及びCOX-1が関与する可能性が示された。 さらに、ヒト肝細胞がん株HepG2、ヒト乳がん細胞株MCF-7、ヒト肺がん細胞株A549の細胞増殖及び抗がん剤感受性に対するDCA及びCDCAの影響を検討したところ、MCF-7において、CDCA 10、50μM曝露はドキソルビシン(DXR)感受性を有意に低下させた。DXR曝露後にCDCAを曝露した方が、CDCA曝露後にDXR曝露した場合よりも抗がん剤感受性低下作用が顕著であったことから、CDCAは抗がん剤曝露後の傷害細胞において細胞増殖促進作用がより顕著となる可能性が示された。一方、HepG2及びA549において、DCA/CDCAはこれらの細胞増殖及びCDDP感受性に著変与えなかった。 以上より、1)臨床血液中に存在し変動し得る範囲の胆汁酸濃度上昇はがん細胞の増殖及び抗がん剤反応性に影響を与え、かつその影響はがん腫及び抗がん剤の種類により異なること、2)CDCAは特に抗がん剤曝露後の細胞増殖に影響を与える可能性が示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「5.研究実績の概要」に記載したとおり、平成29年度に明らかにしたヒト慢性骨髄性白血病細胞株K562に加え、平成30年度はヒト肝細胞がん株HepG2、ヒト乳がん細胞株MCF-7、ヒト肺がん細胞株A549を用いて、それらの細胞増殖及び抗がん剤感受性に対する胆汁酸成分DCA/CDCAの影響を検討し、とくにMCF-7においてCDCAによるDXR感受性の顕著な低下を明らかにした。 これらの結果を踏まえ、現在は in vivo 動物実験に向けた準備を進めており、胆汁酸のがん細胞増殖及び薬剤感受性に影響を与える作用機序検討のためのサンプル採取も予定している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成31年度(2019年度)は、これまでの in vitro 実験の結果を踏まえ、in vivo モデル動物実験を実施するとともに、胆汁酸のがん細胞増殖及び薬剤感受性に影響を与える機序について検討する。 1.胆管拘束担がんモデルマウスを用いた検討:胆汁うっ滞モデル動物を用い抗がん剤感受性の評価を行う。本実験では胆管を結紮するため感染リスクを考慮してヌードマウスを使用せずBALB/cAマウスに対してマウス乳がん細胞株4T1細胞を接種して作製する。モデル動物作製に先立ち、予め4T1に対する胆汁酸の影響についてin vitroで確認を行う。4T1を接種して担がんマウスを作製後、DXRもしくは生食を投与し、これらをコントロール(sham群)と胆管拘束群に分けた後に胆管拘束を実施する。その後、定期的に体重および腫瘍径を測定し、最終的には血液及びがん組織を採取する。これにより、 ・胆汁うっ滞が抗がん剤感受性に及ぼす影響について明らかにする ・採取した血液、がん組織を用いて、胆汁酸により細胞増殖促進作用及び抗がん剤感受性低下に関わる関連遺伝子・タンパク質の分析を行い、作用機序を明らかにする 2.胆汁酸のがん細胞増殖及び薬剤感受性に影響を与える機序についての検討:DCA/CDCAの影響が明らかとなったK562及びMCF-7を用いて、COX-1, COX-2, BREを始め、BREに関わるオーファン閣内受容体Nur77の関与について検討する。さらに、胆汁酸受容体として知られているTGR5と関わる細胞内情報伝達の関りについて検討する。得られた結果は、胆管拘束担がんモデルマウスから採取したがん組織サンプルを用いて検証する。 3.胆汁酸の影響が明らかとなったがん種および抗がん剤について、カルテ記載などの臨床情報を用いた疫学調査研究(後方視的調査)の実施に向けた倫理申請を行い、承認後より調査を実施する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初、平成29年度の検討結果に基づきヒト慢性骨髄性白血病細胞K562を用いた胆汁うっ滞モデル動物(胆管拘束担がんモデルマウス)によるin vivo 動物実験を予定していた。しかし、その後、ヒト乳がん細胞MCF-7において、K562を上回るより顕著な胆汁酸による抗がん剤感受性低下が認められたため、動物実験では乳がん細胞をターゲットとすることに予定を変更した。さらに、担がんモデルマウスの作製にあたり、胆管結紮処理を行うためヌードマウスは感染リスクがあり使用できないことから、さらにマウス乳がん細胞株4T1を用いた予備検討が必要になったため、平成30年度内におけるin vivoモデル動物を用いた実験に対する使用とならなかった。これにより生じた次年度使用額は、次年度の実施計画通り「in vivoモデル動物による評価」に使用する予定である。
|