研究課題
ヒト肝初代培養肝細胞と胎盤細胞を用いて、薬物代謝能に影響を与えている要因について検討を行った。先行研究で、培養細胞系の培養液の添加物の状態によって基底レベルの発現が変動すること、それに伴って誘導効果がマスクされてしまう可能性について検討を行っている。既成培地では、特に培地中のハイドロコルチゾンの添加によって、肝薬物代謝酵素チトクロムP450 の発現量が高めらている可能性が考えられたことから、培地中の組成を必要最低限に設定し、各種ホルモン添加の影響について検討を行った。その結果、ハイドロコルチゾンの添加量に比例してP4503A4の基底レベルの発現が上昇するため誘導効果が反映されにくいことが明らかとなった。更にヒト胎盤細胞BeWoを用いて同様の検討を行ったところ、通常設定培地よりも血清量を減らした状態では、胎盤に存在する薬物代謝酵素について、典型的な誘導剤に対する反応性が認められた。ヒトでは妊娠最終期に血中のステロイドホルモンレベルが上昇することから、胎盤の薬物代謝活性への影響を今回検討した培地条件を利用して行くことでより正確に把握することができると考えている。また3種サリドマイド類縁化合物の胎盤透過性について検討を行った結果、特にレナリドマイドの透過性が低いことが明らかとなった、この要因として胎盤内での薬物アセチル化に伴って、薬物の極性が低下し細胞内への取り込みに影響を与えている可能性が示唆され、今後さらに検討していく予定である。以上の結果を踏まえて、iPSの肝細胞への分化誘導と各種薬物代謝酵素発現を促す生体内因子を明らかにし、実験系として確立することによって、今後生体内物質と新規外来異物による代謝酵素発現誘導を検討する有効な手段として用いられることが期待できる。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、ヒト肝細胞が使用できたことで、データを蓄積することができた一方で、ロットによる差が顕著に表れており、一部反応性が低く結果として検討することが困難であった。培地添加について血清から内因性物質除去のために活性炭-デキストラン処理を行ったが、今後市販の内因性物質除去血清とも比較検討を行いたいと考えている。
前年度までの結果をもとに、iPS細胞の肝細胞分化誘導について、特に薬物代謝酵素発現・調節機構の解明に活用できるような手法をプロトコール化することで、iPS細胞を一定の条件下で反応に用いられるようにしていく。また、薬物添加時の影響について、細胞透過性と吸収性についての検討を消化管の代表例として、ヒト小腸細胞CaCo2並びに胎盤細胞と肝細胞との共培養系を確立し、薬物吸収による毒性発現の検出と評価を行えることを最終的には考えている。
試薬購入の際、予定の額よりもキャンペーン価格の時期と一致したため、その値引きの分が今回残額として発生した。今年度計上額と合わせ、試薬の購入に有意義に反映させていきたいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
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