研究実績の概要 |
肝薬物代謝酵素の発現は、生理的な状態によって左右されることが知られている。これまでに、培養細胞系では培養条件によって、肝細胞の薬物代謝酵素の機能ならびに発現が変化することを明らかにしてきた。この条件をiPS細胞の分化誘導に応用し、より生体内の肝細胞に類似した機能を維持し、創薬や肝毒性の評価系としての汎用性を検討した。まず生理的条件の変動の1つとして生体内サイトカインに着目した。従来炎症時に生じるサイトカインの増加が肝臓の代謝酵素の発現に対する影響について様々な報告がある。実際にこの影響をIL-1β,IL-2, IL.6, IL10, TNF-α, INF-γ, リポポリサッカライド(LPS)を用いて、初代培養ヒト肝細胞と医薬品の開発に用いられるサル肝細胞で検討をおこなった。濃度0.0001~1uMで段階的に検討した結果、特にヒト肝細胞では、IL-6の添加でP4503A mRNA発現に関して酵素活性を伴った著しい減少が認められた。一方、対照としたサル肝細胞では、特にP4503A5mRNAに上昇が認められ、ミダゾラム水酸化酵素活性に関しても上昇したことからヒトとは異なる影響が確認された。近年ガイドラインの評価系細胞としてとりあげっれている肝癌由来HepaRG細胞その作用濃度に関しては、およそ100倍倍高濃度側にIC50が変動していた。HepaRGを培養細胞評価系で用いる場合には、ヒト肝初代培養細胞と感受性(応答性)に差があることが判明し、培養している培地についても長時間培養可能とされている培地で培養を続けたものに関して、これまでよりも特にP4502Cの発現維持に影響する可能性が認められ、最も細胞の機能が維持されている状態を再現したiPS細胞への応用性を検討した。
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