本研究では、脂質代謝を標的とした膵がんの新規治療法開発を目的として、各種検討を行った。2017~2018年度は、細胞内の脂質代謝(コレステロール、中性脂肪および脂肪酸)のうち、脂肪酸合成阻害が最も強い細胞死誘導効果を示すことを明らかとした。さらに、脂肪酸合成酵素の中でも、アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)の阻害が最も有効である可能性を見出した。しかし、膵がん細胞株の1つであるPANC-1は脂肪酸枯渇による細胞死を示さないことが明らかとなった。以前より、PANC-1は栄養飢餓耐性を有することが報告されており、生体内の膵がん細胞と類似した性質を有していることが知られいてる。事実、PACN-1は飢餓培地であるEBSS中でも48時間まで生存することを確認した。そこで、PANC-1の飢餓耐性メカニズムを明らかにするために、グルタミン欠損培地を用いて培養したところ劇的に生存率が減少した。グルタミン代謝阻害剤であるBPTESを用いた場合も、グルタミン欠損時と同程度の細胞死を示した。これは、PANC-1が通常の栄養条件下でグルタミンに依存した生存能力を有していることを示唆している。さらに、BPTES存在化またはグルタミン欠損条件下で、ACC阻害の作用が増強されたことから、脂肪酸合成阻害による細胞死誘導にはグルタミン代謝阻害が有効であることが示唆された。 最終年度は、PANC-1の生存に重要なグルタミン以外の必須栄養素の探索を行った。血清の影響について調べたところ、無血清時では有意な生存率の低下が見られたが、通常血清またはアミノ酸除去血清による違いはほとんど観察されなかった。また培地中のグルコース含量の影響はほとんど観察されなかった。これらの結果から、血清に含まれるアミノ酸や培地中のグルコースは重要ではなくタンパク質や脂質が重要である可能性が高いと考えられた。
|