研究課題/領域番号 |
17K08434
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
西尾 太一 山形大学, 大学院理工学研究科, その他 (60625432)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 経口薬剤 / 結晶化度制御セルロース / 経皮薬剤 / 徐放貼付製品 |
研究実績の概要 |
平成29年度(初年度)は結晶化度を「臼式粉砕」で制御したセルロースを用い、対象薬剤(サルチル酸メチル)のセルロースへの吸収/放出とセルロースの結晶化度の関係を解析し、適切な結晶化度の指標化を明確化する検討をおこなった。フィルム内での薬剤サルチル酸メチル含有量の定量的評価には、UV・可視光の吸収スペクトル法を用いた。フィルムの厚み方向でのサルチル酸メチルの拡散挙動解析のために、薄膜PE積層法でフィルム各層の薬剤濃度を経時的に測定する手法を確立した。サルチル酸メチルのポリエチレン(PE)内での薬剤濃度測定からフィルム表面に薬剤が一定量・一定時間拡散するには、初期拡散量を抑えるためにPE樹脂の結晶化度が60%以上であることが必要であることを見出し、拡散量と結晶化度の相関性を明確にした。平成30年度(2年目)では、薬剤のフィルム内拡散機構について検討した。小角X線散乱からPEの結晶/非晶の長周期構造を求め、非晶領域(非晶の道)と薬剤拡散量に相関性があることを見出した。また、臼式粉砕で結晶化度が制御されたセルロース粉を10%ブレンドしたPEフィルムにサルチル酸メチル水溶液を含浸させた薬剤層とLDPEフィルム(50μ)5枚のフィルムを重ね合わせた系を作製した。この組み合わせフィルムを常温で72時間放置し、各フィルム表面に拡散した薬剤量を測定することで継時的に薬剤拡散挙動が評価できる方法を確立した。更には、当研究室で所有している小型の2軸混練押出機(テクノベル社製KZWとULT)を用い、2種3層のフィルムが共押出しできるダイスを設計し製造した。この装置を用い中心部は薬剤含浸セルロースブレンドフィルムで内外層に薬剤拡散速度制御PEの多層フィルムが製造できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
経口薬剤は、患部までの距離が遠く、経口後血液中の薬剤濃度が急上昇すること、効力が短時間で失われるなどの課題がある。この課題を解決するには、システム的には薬剤を患部に近い皮膚に貼付する方法が有効であり、かつ貼付するシートからの薬剤量が一定量長時間フィルム表面にブリードすることが必須である。そのため薬剤のフィルム表面への拡散機構について検討した。フィルム内での薬剤拡散を阻害する因子としてはポリマーの結晶化度と結晶粒子径がある。結晶構造の解析のために、小角X線散乱を用いPEの結晶/非晶の長周期構造を求めた。その結果、結晶でない非晶領域(非晶の道)と薬剤拡散量に相関性があることを見出した。また、PEに臼式粉砕で結晶化度が制御されたセルロース粉を10%ブレンドすることで作製したフィルムにサルチル酸メチル水溶液を含浸させた薬剤層とLDPEフィルム(50μ)5枚のフィルムを重ね合わせたものを作成した(「薄膜フィルムの多層化評価法」)。この組み合わせフィルムを常温で72時間放置し、各フィルム表面に拡散した薬剤量を測定して継時的かつ厚み方向での薬剤拡散量が評価できる方法を確立した。 1年目に見出した結晶化度60%以上のPEフィルムを用いるとフィルム表面に継時的かつ定量的に薬剤がブリードする製品開発の指針が見えた。更には、当研究室で所有している小型の2軸混練押出機(テクノベル社製 KZWとULT)を用い、2種3層のフィルムが共押出しできる「改造ダイス」を設計し製造した。この装置を用い中心部は薬剤含浸セルロースブレンドフィルムで内外層に薬剤拡散速度制御PEの多層フィルムが製造できるようになった。以上の成果からおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は最終年度にあたるので、「経口薬剤に代わる結晶性制御セルロースを用いた経皮薬剤徐放貼付製品の創製」をめざし、臼式粉砕装置を用いたセルロースの最適な結晶化度と粒子径領域の確立とPEの最適結晶化度領域の確立を進める。セルロースの結晶化度と薬剤の吸収・放出挙動に、セルロースの結晶粒子径依存性と結晶化度依存性が混在する様子を把握したい。臼による粉砕の条件でセルロースの結晶化度制御が可能なこと、および粉砕品の再結晶化処理で同一粒子径品の結晶化度を高めることが可能ということまで確認できているが同一粒子径で結晶化度を変更し検討を続行する。さらには 理論的な展開として粒子径から表面積が算出できるので、単位表面積あたりの吸収量・放出量を測定算出し、セルロースの結晶化度への依存性を理論構築していく。これらの結果を踏まえ、マトリックス樹脂であるPEの結晶化度・結晶粒子径を「改造ダイス」の混練・成形条件で制御し、3次元的モルフォロジー設計(厚み方向の結晶構造制御)により材料・プロセス・製品の構築を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
総額約240万円の予算を適正に執行した結果として発生した11万円弱の残金は、次年度の物品費などとして有効活用することとした。
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