平成29年度(初年度)は結晶化度を「臼式粉砕」で制御したセルロースを用い、対象薬剤(サルチル酸メチル)のセルロースへの吸収/放出とセルロースの結晶化度の関係を解析し、適切な結晶化度の指標化を明確化する検討をおこなった。フィルム内でのサルチル酸メチル含有量の定量的評価にはUV・可視光の吸収スペクトル法を用いた。フィルムの厚み方向でのサルチル酸メチルの拡散挙動解析のために、薄膜PE積層法でフィルム各層の薬剤濃度を経時的に測定する手法を確立した。平成30年度(2年目)には、薬剤のフィルム内拡散機構について検討した。小角X線散乱からPEの結晶/非晶の長周期構造を求め、非晶領域(非晶の道)と薬剤拡散量に相関性があることを見出した。また、臼式粉砕で結晶化度が制御されたセルロース粉をブレンドしたPEフィルムにサルチル酸メチル水溶液を含浸させた薬剤層とLDPEフィルムを重ね合わせた系を作製した。この組み合わせフィルムを常温で長時間放置し、各フィルム表面に拡散した薬剤量を測定することで継時的に薬剤拡散挙動が評価できる方法を確立した。平成31年度(最終年度)は前年度に構築したモデル実験系を用い、薬剤拡散挙動におけるセルロースの結晶化度依存性と粒子径依存性について検討した。これは、薬剤拡散挙動に影響を与えるセルロースの因子を把握し、薬剤拡散挙動を制御する手段を確立するための検討であった。臼式粉砕と再結晶化処理により結晶化度と粒子径を制御したセルロースを用いた。セルロースの添加による初期薬剤拡散量の抑制は確認されたが、セルロースの結晶化度依存性と粒子径依存性については正確に判断することが困難であった。また、セルロースの添加量を調整した系での拡散挙動も検討し、セルロースの添加量と薬剤拡散量に相関性があることを見出した。
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