研究課題/領域番号 |
17K08439
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
荒井 國三 金沢大学, 薬学系, 教授 (50126562)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 糖尿病 / 患者心理 / 糖尿病イメージ / 服薬アドヒアランス / 薬剤師介入 |
研究実績の概要 |
糖尿病治療において重要なことは血糖を良好に保つことであり、日本糖尿病学会は合併症予防を目的としてHbA1c7.0%未満を目標に定めている。しかし、HbA1c7.0%未満にコントロールされている患者は全体の56.1%であるという報告がある。 糖尿病治療において薬物療法は食事療法、運動療法と並び重要な治療法である。すでに海外の研究では、経口血糖降下薬の服薬アドヒアランスが良好であれば血糖コントロールが良いことが示されている。しかしながら、慢性疾患における内服薬のアドヒアランスは低く、中でも糖尿病治療薬は特に低いことが報告されている。 糖尿病患者の心理的側面を表す新たな指標として、糖尿病イメージが提案されている6)。釜谷らは糖尿病に対して患者が持つイメージには7つの因子があることを示し、28項目からなる「2型糖尿病患者の糖尿病イメージを見るための質問用紙」を作成した7)。糖尿病イメージは患者の糖尿病にまつわる経験に依存する。すなわち、治療経験の違いから糖尿病患者特有の行動・性格傾向を形成するのではないかと釜谷らは考察している。そして、糖尿病イメージと血糖コントロールの関連が示唆され、疾患管理において糖尿病イメージからアプローチする新たな切り口の可能性が見出されている。 一方で、糖尿病患者の服薬アドヒアランスと患者の糖尿病に対するイメージとの関連については解明されていない。この関係が明らかになることで、単なる知識の提供にとどまらない、より有用な薬剤師介入につながると考えられる。本研究では、地域薬局に通う2型糖尿病患者を対象に質問用紙によるアンケート調査を実施し、服薬アドヒアランスと糖尿病イメージの関連を評価する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糖尿病コントロールと服薬アドヒアランスや患者の心理的側面について注目されている。釜谷らは28 項目7 因子構造から成る「2 型糖尿病患者の糖尿病イメージを見るための質問紙」を作成した。患者の持つ糖尿病イメージはそれまでに受けた治療の経験に依存する。つまり,治療経験の違いから個々の糖尿病患者特有の行動・性格傾向を形成するのでないかと釜谷らは考察している。 治療経験には薬の副作用,服薬することによる生活習慣の変化,疾患に対する感受性の低下(服薬しなくても特に変化がない)や治療に対する理解不足などの因子が含まれると報告している。しかし,患者の心理指標と服薬アドヒアランスの関連については調査されていない。そこで、本研究では、服薬アドヒアランスと患者の病態理解および心理指標の関連を明らかにすることで、将来的な患者の服薬アドヒアランス向上のための服薬指導方法の提案を行えると考え記述式質問紙による量的相関関係型調査研究を行った。糖尿病イメージ7因子のうち、「きちんと生活するイメージ」が弱い2型糖尿病患者は服薬アドヒアランスが不良であることが明らかとなった。このイメージを構成する質問は「食べるものに気をつけるような」、「正しい生活をするような」、「自分でコントロールすればなんともないような」の3項目であり、糖尿病コントロールのためには制限された生活を続けなければならないことへの負担・落胆の心理状態を反映していると考えられる。このことから、服薬アドヒアランス改善に向けた介入では、糖尿病患者は食生活を中心として正しく生活するものであるという意識付けをするとともに、糖尿病を自らコントロールすることができれば恐れるような予後を迎える可能性は低いという楽観的な認識を与えることも重要であることが示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
通常の服薬指導とは別に保険薬局薬剤師が糖尿病患者へのカウンセリングを行うなどの積極的関与によって、糖尿病治療コントロールの指標であるHbA1c値が低下することを示したアッシュビルプロジェクト3、4)を筆頭に、薬剤師による糖尿病患者への積極的介入が疾病改善をもたらすことを示した様々な報告がある。さらに米国では薬剤師の介入は疾患コントロールや医療費削減に役立つとして、報酬が支払われるまでに発展した。日本でも、アッシュビルプロジェクトを参考に、医療機関と連携した薬局薬剤師の介入によって糖尿病患者の疾患コントロールが向上した事例など報告されている。 今回、薬剤師が糖尿病患者の治療に積極的にかかわること(処方日以外の日に患者に電話やメールで糖尿病治療に関する相談や服薬アドヒアランスや症状などを聞き取る)により、糖尿病患者の心理がどの様に変化するか調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究参加薬局への通信が次年度に延期したため、通信費が次年度使用額として生じた。 次年度に通信費として使用する。
|