研究課題
悪心・嘔吐は癌化学療法において発現する頻度の高い有害事象のひとつである。近年、新規制吐薬が開発されたことや各国の学会等において制吐薬の使用についてガイドラインが策定されたことにより、制吐コントロールは劇的に改善が認められている。しかしながら、ガイドライン遵守の制吐対策を行った場合にも制吐コントロールが不良となる場合もしばしばある。オランザピン(OLZ)は統合失調症、双極性障害の治療に用いられる薬剤である。OLZは多元受容体作用精神病薬に分類され、ドパミン受容体、セロトニン受容体、ヒスタミンH1受容体、ムスカリン受容体など複数の受容体に対して親和性を持つ薬剤である。近年の知見から海外のガイドラインにおいて、制吐薬としても使用が推奨されている。一方で本邦では、現在は保険適応となっているものの以前は保険適応がなかったこともあり、その使用は限定的であった。本研究ではOLZを使用した場合の制吐コントロールの改善状況および制吐薬としてのOLZの作用メカニズムの解明、OLZが使用不可の場合の代替薬剤の検討等を目的に検討を行っている。平成30年度も引き続き、ガイドライン遵守の制吐対策を行った場合にも制吐不良となる高度催吐性リスク抗がん薬を含むレジメンにおける制吐不良となるリスク因子の解析、およびOLZの追加効果について検討を行った。また基礎研究においてOLZの制吐作用のメカニズムについても引き続き検討を行っている。
3: やや遅れている
平成30年度も引き続き臨床において、ガイドライン遵守の制吐対策を行った場合にも制吐不良となるレジメンについての制吐不良となるリスク因子を明らかにし、OLZを追加した場合の効果について明らかにすること目的で検討を行っている。平成29年度にはシスプラチン(CDDP)を含有するレジメンを施行した大腸癌患者および乳癌のアントラサイクリン系/シクロホスファミド併用療法(AC療法)を行った患者でガイドライン遵守の制吐対策にOLZを追加した場合に制吐コントロールが改善することを明らかにしたが、現在も引き続き癌腫やレジメンごとにOLZを用いた場合に改善が認められるかどうかを検討中である。またOLZの代替薬としてミルタザピン等を用いた場合の悪心・嘔吐改善効果についても検討を行っている。基礎研究においてOLZによる悪心・嘔吐の改善メカニズムにグレリン分泌が関与する可能性についても引き続き検討を行っている。シスプラチン投与により投与後24時間後に血漿中グレリン濃度がシスプラチン非投与群と比較して有意に低下することを確認し、またシスプラチン投与と同時にオランザピンを経口投与することで、シスプラチン投与低下したグレリン分泌がオランザピン投与群で有意に改善することを確認しているが、その他OLZ以外の薬剤やグレリン以外のレプチン等のホルモン類の影響については引き続き検討中であり、総合的に判断すると計画と比較してやや遅れているため、平成31年度は特に基礎研究に重点を置いて研究を進める。
平成31年度も昨年度までに引き続き、臨床におけるデータ収集および基礎研究におけるメカニズムの解明を行うが、基礎研究により重点を置いて研究を進める。臨床においては引き続き、OLZの制吐コントロール改善効果および追加使用すべき患者を明らかにする目的で、制吐不良となるレジメンにおけるOLZの追加による制吐コントロール改善効果および制吐コントロール不良となるリスク因子の解析を行う。さらにOLZが使用禁忌となる患者における代替薬の候補についても検討を行う。また基礎検討においても、OLZの制吐薬としての作用メカニズムの解明を行う目的で、グレリン、レプチン等の食欲に関連するホルモンの影響に関する検討を引き続き行う。またOLZの作用メカニズムとしてドパミン受容体、セロトニン受容体、ヒスタミンH1受容体を関した経路についてもその阻害剤を用いて同様の検討を行うことでさらに詳細なメカニズムの解明を目指し、代替薬の候補を明らかにする予定である。
臨床研究を優先して行ったため、基礎研究で用いる動物飼育費等が予定より少なかった。今年度は基礎研究に重点を置いて研究を進めるため、実験動物や測定キットの購入費として使用する予定である。
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