研究課題/領域番号 |
17K08459
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
浅野 哲 国際医療福祉大学, 薬学部, 教授 (70568063)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 起壊死性抗がん剤 / 皮膚傷害 / 罨法 / 細胞骨格 / アポトーシス / 壊死 / チューブリン / 微小管機能阻害薬 |
研究実績の概要 |
(1)微小管機能阻害薬であるビノレルビン(VNR)の血管外漏出による皮膚傷害抑制効果に対してのメカニズムを,正常ヒト皮膚線維芽細胞(SF-TY)を用いて検討した。細胞膜破壊によるnecrosisは37℃でVNR(臨床用薬液の10倍希釈溶液)を曝露した細胞では有意に増加したが,23℃で曝露した細胞では有意に抑制された。一方apoptosisは,曝露24時間後ではいずれの温度においてもほとんど検出されず,37℃で曝露した細胞では曝露72時間後に有意に増加し,23℃では抑制された。VNRを37℃で曝露した細胞では細胞傷害性が増加したが23℃では対照群レベルまで抑制された。従って,VNRの細胞傷害はダブリング以前はnecrosisが主であり,以後は薬理作用によるapoptosisが主となると考えた。VNRによって引き起こされるnecrosisとapoptosisのいずれに対しても冷罨法が抑制効果を示すことが明らかとなった。 (2)SF-TYを用いた免疫染色によりVNRの細胞周期に依存しない微小管阻害の進行を解析した。VNR(臨床用薬液の10倍希釈溶液)を48時間まで経時的に曝露し,β-チューブリンの免疫染色を行った。VNRの曝露直後から一部の細胞の微小管が極端に短縮された像が認められ,数時間かけてほぼ全体の細胞で短縮が認められた。冷罨法では,VNRの微小管重合阻害の進行を曝露初期の段階から遅らせ,曝露後4時間までの寄与が大きいと考えられた。一方でアクチンフィラメントに対しての影響は少なく,VNRによる細胞内微小管重合阻害は,急性期の細胞傷害における細胞形態の破綻に対する影響は少ないと考えられた。その重合阻害は冷罨法によって遅延・抑制されることが示唆され,暴露初期の微小管重合阻害は微小管の細胞骨格形成への影響ではなく,細胞内の機能に関わる役割に影響を及ぼすと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
起壊死性抗がん剤であるビノレルビンの細胞傷害のメカニズムに関する知見を得ることができた。また,研究成果につき,日本薬学会第138回,国際医療福祉大学学術大会にて発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では,細胞傷害性メカニズムの一つに,脂質の過酸化による細胞膜の破壊が関与することが明らかになっている。さらには,冷罨法による細胞傷害の抑制や適切な濃度のステロイド剤の添加による炎症性サイトカインの産生抑制が認められ,臨床での有用性の可能性が示唆された。そこで,種々の起壊死性抗がん剤ごとの急性期および慢性期の傷害性と関連する炎症性サイトカインや細胞傷害因子の発現状況を確認する。さらには,ヒト培養細胞を用いて,酸化ストレス等の細胞傷害性に及ぼす因子や,血管障害性,抗がん活性に基づく細胞毒性,さらには生体防御因子の発現と温度変化との関連性を含めて,臨床での様々な皮膚傷害に対応した処置方法ならびに予防方法を確定する。罨法や副腎皮質ステロイド剤の投与により,組織傷害に関連するサイトカインや,メタロチオネインやHSP(ヒートショックプロテイン)といった生体防御に関連した分子の動態を解析し,病態や薬剤の特徴に沿った臨床での予防やケアに有用な分類を提唱する
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 細胞傷害性メカニズム検討の実験に関し,得られたデータから次の実験研究立案に時間を要し,試薬の発注が遅れたため。 (使用計画) 本年度に予定していた実験に用いる試薬の購入のため,次年度に予算を使用する予定である。
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