研究課題/領域番号 |
17K08459
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
浅野 哲 国際医療福祉大学, 薬学部, 教授 (70568063)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 起壊死性抗がん剤 / 皮膚傷害 / 罨法 / 酸化ストレス / 添加剤 / 細胞骨格 / 微小管機能阻害薬 |
研究実績の概要 |
これまでの研究で、起壊死性抗がん剤に分類される微小管機能阻害薬の血管外漏出時に認められる急性の皮膚傷害には、製剤による酸化ストレス作用と微小管機能障害が関与することを示してきた。また、傷害の軽減には冷罨法が適切であることが示唆されている。
(1) 微小管機能阻害薬の血管外漏出による皮膚傷害に関して、その添加剤の影響について正常ヒト皮膚線維芽細胞(SF-TY)を用いて検討した。タキサン系抗がん剤であるパクリタキセル(PTX)及びドセタキセル(DOC)に含まれている添加剤は、血管内皮に対しても短時間の曝露で細胞傷害性を示すことが明らかとなった。また、これらの添加剤に含まれる濃度のエタノールは血管内皮への細胞傷害性を示さず、界面活性剤のポリオキシエチレンヒマシ油及びポリソルベート80が細胞傷害へ関与している可能性が示唆された。さらに、PTX及びDOCが引き起こす酸化ストレスには主薬自体も関与して増強していることが明らかとなった。そして、この酸化ストレスは、冷罨法によって抑制される可能性が示唆された。 (2) SF-TYを用いたβ-チューブリンおよびβ-アクチンの免疫染色によりビノレルビン(VNR)の細胞周期に依存しない微小管阻害の進行を解析した。VNRによる微小管重合阻害は短時間の曝露では細胞骨格にほとんど影響しないが、長時間の曝露では細胞骨格の破綻が確認でき、曝露時間が延長するほど破綻の強度が増加した。VNRによる細胞分裂に関連しない微小管重合阻害は、急性期の細胞傷害における細胞形態の破綻に対する引き金になる可能性が考えられた。しかしながら、その重合阻害は冷罨法によって遅延・抑制されることが示唆された。 冷罨法は細胞骨格の基盤であるβ-アクチンの形態維持に寄与し、VNR曝露による細胞骨格破綻への流れに対して抑制的に働くと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微小管機能阻害薬であるパクリタキセル及びドセタキセルの皮膚細胞傷害作用に、それらの製剤の添加剤が関与していることが示された。また、起壊死性抗がん剤であるビノレルビンの細胞傷害の細胞骨格破綻に関するメカニズムの知見を得ることができた。さらには、研究成果につき、フォーラム2018衛生薬学・環境トキシコロジー、日本薬学会第139回,第8回国際医療福祉大学学術大会にて発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では,細胞傷害性メカニズムの一つに,脂質の過酸化による細胞膜の破壊が関与することが明らかになっている。さらには,冷罨法による細胞傷害の抑制や適切な濃度のステロイド剤の添加による炎症性サイトカインの産生抑制が認められ,臨床での有用性の可能性が示唆された。そこで,種々の起壊死性抗がん剤ごとの急性期および慢性期の傷害性と関連する炎症性サイトカインや細胞傷害因子の発現状況を確認する。さらには,ヒト培養細胞を用いて,酸化ストレス等の細胞傷害性に及ぼす因子や,血管障害性,抗がん活性に基づく細胞毒性,さらには生体防御因子の発現と温度変化との関連性を含めて,臨床での様々な皮膚傷害に対応した処置方法ならびに予防方法を確定する。罨法や副腎皮質ステロイド剤の投与により,組織傷害に関連するサイトカインや,メタロチオネインやHSP(ヒートショックプロテイン)といった生体防御に関連した分子の動態を解析し,病態や薬剤の特徴に沿った臨床での予防やケアに有用な分類を提唱する
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 細胞傷害性メカニズム検討の実験に関し,得られたデータから次の実験研究立案に時間を要し,試薬の発注が遅れたため。 (使用計画) 本年度に予定していた実験に用いる試薬の購入のため,次年度に予算を使用する予定である。
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