ヒト培養細胞(血管内皮細胞、皮膚線維芽細胞、等)に対する起壊死性抗がん剤の細胞傷害性に関して、以下の特徴があることを解明した。 ①微小管機能阻害薬を培養細胞に曝露した場合、脂質過酸化により生じるマロンジアルデヒドの細胞内濃度が顕著に増加したことより、起壊死性抗がん剤が血管外漏出した際の急性の細胞傷害には、脂質過酸化による酸化的ストレスの関与が示唆された。②ビンカアルカロイド系抗がん剤のビノレルビン(VNR)では、細胞内チューブリンの重合阻害が曝露初期より認められ、細胞骨格の破綻にチューブリンの機能障害が関与する可能性が示唆された。 冷罨法および温罨法に相当する条件として、23℃、41℃による抗がん剤曝露実験を行い、罨法による細胞傷害性に対する効果を検討した。 ①タキサン系およびビンカアルカロイド(VNR)による細胞傷害性は、組織傷害が激しい場合には冷罨法が、傷害が軽度の場合には冷罨法に加えて温罨法も有効なことが示唆された。②VNRの血管外漏出による皮膚傷害に対する温罨法処置においては、熱感受性タンパク質(HSP)、HSP70及びHSP90αが誘導され、上皮系細胞に対しては細胞保護作用に大きく関与することが示唆された。③起壊死性抗がん剤による酸化的ストレス並びに細胞内微小管の重合阻害による細胞傷害は、23℃の実験条件下で抑制されるため、傷害発生後直ちに冷罨法を行うことにより、組織の壊死を抑制できると考えられた。④微小管機能阻害薬の血管外漏出がIL-6の放出を促し、ヒトの皮膚組織における初期の炎症反応の進行に関与する可能性が示唆された。⑤ステロイド剤そのものにも臨床用量の濃度では細胞傷害性があり、薬剤の投与量に注意が必要である(臨床用投与量の100~10万倍希釈が適切)ことが示唆された。
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