研究課題/領域番号 |
17K08461
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研究機関 | 帝京平成大学 |
研究代表者 |
石田 功 帝京平成大学, 薬学部, 教授 (00415556)
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研究分担者 |
大西 敦 帝京平成大学, 薬学部, 准教授 (50342762)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 台湾ハブ毒 / フィブリン分解酵素 / 血栓溶解剤 / 遺伝子組換えタンパク質 |
研究実績の概要 |
日本においても欧米と同様に、血栓症の罹患率、死因率の高さはトップクラスに位置しており、血栓症の予防、治療に関する研究の注目度は非常に高い。血管の梗塞部位解除に組換え組織プラスミノーゲン活性化因子(rtPA)の静脈注射は効果的であり、再狭窄についてはGPIIb/IIIa血小板受容体阻害剤により回避可能とされるが、活性化された血中プラスミンによる補体活性化、血小板凝集促進による副作用が問題となる。ガラガラヘビ毒由来メタロプロテアーゼ断片(Alfimeprase)は出血活性を持たず強力なフィブリン塊分解活性を持ち、rtPAのような副作用が予想されないため、米国で血栓溶解剤として臨床開発された。しかしながら、生理的条件下において、Alfimepraseは血清中のα2-macroglobulin (α2M)により不可逆的に速やかに不活性化されるため、期待された効果が見られず、第2相臨床試験でドロップした。 本研究で着目した台湾ハブ毒由来タンパク質TM3(Fibrinlysin)は、Alfimeprase様の分子であるが、フィブリン塊分解活性を持ち、α2Mには不活性化されないが出血活性を持つという欠点がある。出血活性は毒タンパク質の活性部位周辺の塩基性アミノ酸残基が基底膜と結合することで発現すると考えられており、 TM3の活性部位周辺において特徴的な塩基性アミノ酸残基を特定し、出血活性を欠損したTM3変異体の作製を試みる。さらには、それにヒトプラスミノーゲンクリングルドメイン1(FBD)を融合することで、フィブリン塊に対して特異的なターゲッティング活性を持たせ、副作用の低減を図る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Fibrinlysinとその類似タンパク質(Alfimeprase, HR2a)のアミノ酸配列を比較した結果、Fibrinlysinにおいて特徴的である4カ所の塩基性アミノ酸残基R85、R106、R116、K133を見出した。これら塩基性アミノ酸残基がFibrinlysinの出血活性に関与すると考えられる。また、R106はFibrinlysinの活性部位の近傍に位置するため、R106のアミノ酸置換は酵素活性に影響を及ぼすことが予想された。加えて、分子モデリングによりFibrinlysin(Original)と2つの変異体との立体構造を比較した結果、アミノ酸置換によりOriginalとの大きな構造変化は見られなかった。Fibrinlysinの3重変異体(R85T/R116G/K133N)(Mutant1)、および4重変異体(R85T/R106G/R116G/K133N)(Mutant2)の遺伝子を合成し、バキュロウイルス発現系Bac-to-Bac Systemで発現を試みたが、可溶性タンパク質として分泌できなかった。そこで、N末端側にミツバチ毒メリチンのシグナルペプチドを付加した遺伝子を合成し、再度バキュロウイルス発現系で組換えタンパク質の発現を行った。その結果、シグナルペプチドを付加したOriginal、Mutant1、Mutant2は全て可溶性タンパク質として培地中への分泌が確認できた。さらに、これら組換えタンパク質は、HisTrapカラム、陰イオン交換カラムを用いて精製を行った。しかしながら、精製を行うに伴って、目的タンパク質は凝集、不溶化してしまった。現在、目的タンパク質が不溶化しないよう条件検討を行いながら精製中である。また、粗精製ではあるが3種類の組換えタンパク質のフィブリン分解活性を確認した結果、全てにおいてフィブリン分解活性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
カラムを用いて3種類の組換えタンパク質(Original、Mutant1、Mutant2)を単離し、それぞれの精製標品についてフィブリン分解活性の確認を行う。3種類の組換えタンパク質のフィブリン分解活性を確認した後、ウサギの耳に組換えタンパク質を注射し、出血活性の有無を調べる。Originalに出血活性があり、Mutant1またはMuant2に出血活性がなければ、その変異体のN末端またはC末端にFBDを付加した遺伝子を合成し、バキュロウイルス発現系で組換えタンパク質を発現・精製する。作製したMutant1(またはMutant2)+FBDがフィブリン分解活性をもち、かつ出血活性が欠損していることを確認する。さらに、Mutant1(またはMutant2)+FBDがフィブリンコートディスクと特異的に結合することを確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までの進捗状況に記したように、組換えタンパク質の精製が難しく、当初計画通りに進まなかったために、その後の実験費用支出が先延ばしになっている。ブレークスルーするために幾つかの工夫を考え、現在進めている。
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