研究実績の概要 |
前年度に続き外科的に切除された乳がん組織を、加熱可逆性ハイドロゲル(TGP)を用いて三次元培養し、より生体内と近い条件で乳がん組織に対するヒ素化合物(亜ヒ酸ナトリウム、二硫化二ヒ素)とテトランドリン(Tetra)の単独および併用効果を以下のように検討した。さらに、遺伝学的な違いのある三種類の乳がん細胞に対する両薬物の分化誘導能について検討を試みた。 ①細胞毒性の観点からの検討:WST法により、薬物の単独および併用が乳がん組織の生存に対する影響を検討したところ、前年度同様明らかな影響を与えられなかった。三次元培養(低酸素状態)が組織の薬物耐性にポジティブ的な影響を与えた可能性があると考えられる。 ②Cytometric Bead Array(CBAアッセイ)を用いて、上記三次元培養の培養上清中のIL-6, IL-10, IL-17A, TNF, IFN-γおよびTGF-βの量的変動を測定した。IL-6の分泌量が一番多く検出され、それぞれの薬物単独処理ではその量が抑制される傾向が観察された。一方、他のサイトカイン類の分泌量が少なかった。 ③エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)発現の違いのある三種類の乳がん細胞【MDA-MB-231(トリプルネガティブ、ER-PR-HER2-)、MCF-7(ER+PR-HER2-)およびT47D(ER+PR+HER2-)】に両薬物の分化誘導能を検討したところ、MCF-7に対する単独および併用効果が共に観察された。 ④ヒト乳がん由来組織の担がんモデルマウス【patient-derived tumor xenograft (PDTX)】の作成を試みたところ、移植手術が順調だったが、がん組織の増殖がうまく観察されなかった。
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