研究課題/領域番号 |
17K08470
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研究機関 | 横浜薬科大学 |
研究代表者 |
千葉 康司 横浜薬科大学, 薬学部, 教授 (30458864)
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研究分担者 |
岡田 賢二 横浜薬科大学, 薬学部, 准教授 (00396673)
岡 美佳子 横浜薬科大学, 薬学部, 教授 (50255379)
杉山 雄一 国立研究開発法人理化学研究所, 科技ハブ産連本部, 特別招聘研究員 (80090471)
桑原 隆 横浜薬科大学, 薬学部, 教授 (90786576)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 個体間変動 / 母集団薬物動態解析 / カルバマゼピン / 生理学的薬物動態モデル / 酵素誘導 |
研究実績の概要 |
母集団薬物動態(PPK)および薬力学的(PD)解析では、患者の状態に応じて、主要な薬物動態および薬力学的パラメーターの平均値と変動がそれぞれ別に得られる。また、これらの変動は主に生体側に由来し、解析集団や薬物の特性を考慮することにより、薬剤間で共通する値として用いることが可能と考えられる。本研究では、PDモデルにおける主要パラメーターの変動値を求め、疾患時のPD変動域の推定法を確立することを目的としている。本年度は前年度に引き続き、抗てんかん薬カルバマゼピンのてんかん患者における薬物動態の予測について検討した。カルバマゼピンは、CYP3Aにより代謝される一方で、自己誘導によりCYP3A活性を誘導することが知られている。CYP3Aの誘導前の変動は33%であることが既に報告されているが、誘導後の個体間変動についての報告はない。そこで既報のPPKモデル情報を収集し、誘導後のCYP3Aの活性変動を求めた。その結果、PPKの報告値をメタ解析することにより、誘導後の個体間変動は減少することが明らかになった。酵素誘導モデルを作成しその機序を検討したところ、誘導による薬物曝露の減少に起因することが示された。このことは、同様にCYP3Aにより代謝され自己誘導を示す他剤においても示された。本解析結果は日本薬剤学会年会にて発表予定である。 また、疾患時のPKの情報収集として、MRSA治療薬および肺動脈性高血圧症の治療薬についてPPKモデルを再構築し、臨床データと比較することにより、PPKモデルの外的妥当性について評価し、それぞれ関連学会にて報告(日本薬学会)または報告予定(日本肺高血圧・肺循環学会)である。 さらに、胎児の薬物動態の情報収集として、薬物の胎盤輸送についてモデル化に成功し関連学会誌に掲載した。今後胎児の動態および薬効推定に対する適用可能性について検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は、本年度までにPKの病態時の変動特性を各種疾患ごとに明らかにし、既知のPDモデルより得られた変動からPKの変動を差し引くことにより、PDの主要パラメーターの変動を求め、疾患時のPD変動域を推定する手法を確立している予定であった。 現時点までに、消化性潰瘍患者、肺動脈性高血圧症患者、感染症患者、てんかん患者、糖尿病患者における各種薬剤を用いてその薬物動態について検討した。この内てんかん患者において、薬剤の自己誘導における代謝活性変動の予測法を見出した。PDの変動に関する検討では、抗うつ薬SSRIおよびSNRIについて、薬物血中濃度から予測される標的蛋白近傍の薬物濃度と、PET試験の臨床試験報告値を用いて算出した受容体占有率との関係を調査し、薬効予測の可能性について欧文科学誌に報告した。また、糖尿病領域ではDPP-4阻害薬のDPP結合による非線形性とPDの関連性について着目し、阻害薬のDPP-4に対する占有率とその近傍の薬物濃度の関係を記述できる薬物動態モデルを構築し公表した。しかしこれらは、平均値の推定に留まっており、標的受容体特異的な変動値の推定には至っていない。 PDモデルは投与量または血中濃度と薬効の関係を記述したものであり、本研究では薬効の変動よりPKの変動を差し引くことを試みている。このため、疾患時のPKの変動について精度高く推定する必要があり、その段階に時間を要している。例えば、本年度実施した抗てんかん薬カルバマゼピンの研究では、抗てんかん薬は長期服用が基本であることから、酵素誘導を考慮したPKの変動を推定する必要があった。このPK誘導モデルの構築には成功したものの、PD反応の変動の検討はこれからである。 以上の状況から研究期間を1年間延長し、PD反応の主要パラメーターの変動の抽出についてさらに検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当初は、令和2年度までに、消化性潰瘍治療薬、抗菌薬、精神科用薬、糖尿病薬のPKの変動を明らかにした後、新規薬剤開発に有用な疾患時のPD変動域の推定法を確立する予定であった。現在までに、概ねPKの変動は推定できるようになったが、PDについて各種薬剤の変動域は推定できていない。令和3年度は、現在までに収集したPK情報を基にPDの情報をさらに収集し、PD反応の主要パラメーターの変動を抽出する予定である。 一方、我々が既に構築し報告した各種薬物動態パラメーターの変動値のデーターベース1)を用いて、杉山(分担研究者)らは、薬効の確率論的予測を行っている2, 3)。これらの予測における変動値は、主に薬物動態に由来するものを用いているが、有用な薬効または副作用の予測結果を提示している。 母集団PDモデルの構築には、薬効および副作用の指標に対して適切な用量依存的反応が必要となり、その報告は限られる。一方、医薬品活性本体の曝露量を変動と共に推定することは可能であり、また、疾患時における薬物動態の変動についても、本年度の研究成果であるカルバマゼピンの自己誘導後の変動値のように理論値として得やすい。さらに、PDモデルの報告がない薬剤においても、Emaxモデルなど簡易なPDモデルを用いて、第3相試験成績や製造販売後の副作用情報等を予測し実測値と比較することは可能と考えられる。 本年度は、疾患時の薬物動態の変動にも着目し、また、薬効または副作用の実測値も収集し、PD反応の記述を試みる予定である。 得られた新規知見は、国内外の関連学会にて報告する予定である。 1)ファルマシア, 54, 402-406 (2018). 2) CPT Pharmacometrics Syst Pharmacol, 7, 474-482 (2018). 3) Pharm Res, 34, 1584-1600 (2017).
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は、新型コロナウイルス感染拡大防止による研究室入室制限のため、大学院生が在室する機会が少なく、当初計画していたデスクトップ型解析用コンピューターの購入を控えた。また、予定された学会等もオンライン開催になったため、旅費等の支出を抑えることができた。本年度に解析用コンピューターの購入を持ち越し対応するが、密集防止も考慮し、ノート型のコンピューターに切り替えて対応する予定である(300千円)。PK/PD解析ソフトウェアー(NONMEM 2パック)および計算用ソフトウェアーのライセンス料として250千円、印刷用消耗品30千円、図書20千円を使用予定である。また、旅費として薬物動態学会および臨床薬理学会の参加費200千円、および論文投稿費として200千円の支出を予定している。分担研究者の杉山雄一氏には、PKおよびPDパラメーター推定のための基礎データの収集及び解析費として100千円を配分する。
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