研究課題/領域番号 |
17K08479
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
栗田 智子 産業医科大学, 医学部, 助教 (30519864)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | シスプラチン耐性 / 抗腫瘍効果 / スタチン |
研究実績の概要 |
2種類のがん細胞株(Hela細胞:ヒト子宮頸がん細胞、PC3細胞:ヒト前立腺がん細胞)と各々シスプラチン耐性細胞株(HCP4細胞、PCDP5細胞)を使用しスタチン製剤の抗腫瘍効果について検討した。 ①シスプラチン耐性細胞株(HCP4細胞、PCDP5細胞)は各々親株と比べ、ロバスタチンに対して感受性であり(IC50比で13.48倍と7.11倍)、ロバスタチン処理によりHCP4細胞においてはアポトーシスが誘導された。②Hela細胞に対するHCP4細胞のHMGCS1とHMGCRの発現比は、Real-time PCRで3.8倍と2.9倍、Western blotで2.6倍と2.9倍であったが、HMGCS1の過剰発現やメバロン酸の過剰投与ではシスプラチンに対するIC50に差はなかった。③cDNA microarray解析から、ロバスタチン処理によりHCP4細胞とPCDP5細胞で共に発現が2倍以上になった遺伝子としてKLF2、KLF6およびRHOB遺伝子を同定した。④ KLF2、KLF6、RHOB遺伝子のmRNA量および転写活性はロバスタチンをHCP4細胞に投与すると早期に増加した。またKLF2、KLF6、RHOB遺伝子の発現増加により細胞増殖はいずれも抑制された。⑤シスプラチンとロバスタチンの併用により、Hela細胞とPC3細胞では相乗作用を示し、HCP4細胞とPCDP5細胞では拮抗作用を示した。 シスプラチン耐性細胞に対するロバスタチンの感受性増強には、メバロン酸経路が関与していない可能性が示唆された。一方、KLF2、KLF6、RHOBはいずれも、がん細胞の細胞増殖抑制やアポトーシス誘導に働く腫瘍抑制遺伝子として知られており、ロバスタチンがこれらの腫瘍抑制遺伝子の発現を増加させ、アポトーシスを誘導することで、シスプラチン耐性細胞の生存率を優先的に低下させた可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
培養細胞を用いた研究においては、シスプラチン耐性細胞に対するロバスタチンの感受性増強には、メバロン酸経路が関与していない可能性が示唆され、当初の予測と反していた。 そこでcDNA microarray解析から、ロバスタチンががん抑制遺伝子であるKLF2、KLF6およびRHOB遺伝子の発現を増加させ、アポトーシスを誘導することで、シスプラチン耐性細胞の生存率を優先的に低下させた可能性を同定することが出来た。 当初の予測通りの結果と違いがあった時点で、研究計画についてのミーティングが学内で頻回に行うことが出来て、研究計画の修正がスムーズに施行可能であった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果により、シスプラチン耐性を獲得した再発癌患者において、ロバスタチンが単剤で癌を克服する可能性が示唆された。新規抗癌剤が実臨床で使用されるためには、(1)担癌動物に投与して十分な抗腫瘍効果を示すこと、(2)ヒトに投与して安全性を示すこと、である。(2)に関しては、スタチン系薬剤は脂質異常症治療薬としてすでに使用されているため適用量であれば安全性は担保されている。 今後はシスプラチン耐性性細胞をヌードマウスに移植し、シスプラチン耐性細胞に対するスタチン系薬剤の抗腫瘍効果をin vitroで試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に使用する抗体や消耗品の購入、担癌動物実験用マウスの購入などに使用する。また情報収集のための学会参加や論文作成費用などが必要である。
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