研究課題
通常,創傷治癒は,損傷した組織からの細胞増殖因子やサイトカインの放出により開始されるため,創傷部を湿潤環境に保つことで,より早くかつ傷痕が残らずに創傷が治癒することが報告され,特にゲル状の創傷被覆材や臓器保護材の開発が進んでいる.これまで天然高分子であるキトサンやアルギン酸が,創傷治癒効果を示すことから,ガーゼとして市販されている.しかし,これら創傷被覆材は細胞増殖因子を含む体液まで吸収し,創傷治癒を遅らせる欠点が報告されている.さらに近年,創傷被覆材と薬物の併用による創傷治癒効果の促進が報告されているが,薬物の効果を最大限に長時間維持するためには,創傷部における薬物の有効濃度を一定に保つ必要がある.したがって,創傷部を適度に湿潤させ,かつ薬物保持効果を持つ安定なゲルシートの作製が必要不可欠である.本研究では,皮膚や臓器表面における創傷治癒において,創面を広く被覆し,副作用が懸念される化学的な結合ではなく物理的な静電相互作用を利用した安全で副作用の無いイオン性高分子ゲルシートを提案する.これまでに,キトサンナノファイバー,天然多糖サクランおよびシクロデキストリンのコンビネーションによる安定性に優れかつ多機能型高分子ゲルシートの作製に成功した.そこで,難水溶性のテトラヒドロクルクミン(THC)を主薬として,このゲルシートに封入した結果,シクロデキストリンによるTHCの溶解性の向上に加え,静電相互作用を利用したゲルシートからの徐放性効果も確認された.さらに,ラット褥瘡モデルにおいて,通常のガーゼよりも有意な褥瘡抑制効果が確認され,天然多糖類を利用した新規ゲルシートとしての有用性が確認された.
2: おおむね順調に進展している
初年度に作製した多面的作用を有し電荷を帯びた機能性食品素材のコンビネーションによる多機能型高分子ゲルシートを利用して,ラット褥瘡モデルに応用した結果,有意な褥瘡抑制効果が確認されている.このことから,当初の予定通り,おおむね順調に進展していると考えている.
これまでに多面的作用を有し電荷を帯びた機能性食品素材のコンビネーションによる多機能型高分子ゲルシートを作製し,褥瘡に対する有意な治療効果が確認されつつある.今後,これら組み合わせ条件の組成比を詳細に検討することにより,さらなる機能性(抗酸化作用,抗菌作用,創傷治癒作用,薬物徐放性)の向上について評価していく予定である.
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