研究実績の概要 |
近年,日本の医療現場では多剤併用(ポリファーマシー)が問題となっている.多剤併用は相互作用や有害事象の発生頻度を増加させ,医療費を増大させる要因となる.難治てんかんの多くは,複数の抗てんかん薬を長期間服用する必要があり,有害事象のマネージメントが極めて重要である. 2006年から2018年までに当センターを受診したてんかん患者25,419名292,088ポイントの採血データを収集して大規模コホートデータを構築した.本コホートにおいて重篤な低ナトリウム血症453例,血小板減少症516例,汎血球減少症171例,重篤な肝障害316例を認めた. 14,620名の成人てんかん患者(18~102歳)を対象として重篤な低ナトリウム血症(血清ナトリウム値< 130 mEq/L)の発症リスクを明らかにした.血清ナトリウム値は併用抗てんかん薬数が増加するほど有意に低下した.ロジスティック解析においてカルバマゼピンは,用量および血中濃度に依存して血清ナトリウム値を低下させた.カルバマゼピンとバルプロ酸を同時に併用することで発症リスクが17.1倍に上昇した.さらに,抗てんかん薬と抗精神病薬の併用によって重篤な低ナトリウム血症の発症リスクが4.3倍に上昇した.続いて23,317名のてんかん患者(0~103歳)を対象として重篤な血小板減少の発症リスクを明らかにした.抗てんかん薬の多剤併用で重篤な血小板減少の発症リスクが3.4倍に上昇した.さらにバルプロ酸およびルフィナマイドの併用によって血小板減少の発症リスクはそれぞれ1.7倍,4.5倍に上昇した.一方,低体重および小児は発症リスクが有意に低下した. 本研究は,抗てんかん薬多剤併用時における重篤な有害事象の発現率とリスク因子に明らかにしたものであり,有害事象の発症を予測する上で極めて有用な知見を提供すると考えられる.
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