研究課題/領域番号 |
17K08487
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
志賀 隆 筑波大学, 医学医療系, 教授 (50178860)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 母子関係 / 養育行動 / 皮膚刺激 / 環境要因 / 記憶学習 |
研究実績の概要 |
母仔関係として母親による仔への皮膚刺激に注目し、新生仔期にストレスに曝されたマウスに対して皮膚刺激が行動の発達に及ぼす影響とその脳内機構を解明する。そのためにBALB/cマウスを用い、生後1日目(P1)からP10まで1日あたり3時間、仔を母親や兄弟から分離させる母仔分離(Maternal separation:MS)を行う群(MS群)、母仔分離中に実験者が筆を用いて皮膚刺激(Tactile stimulation:TS)を1日あたり15分間与える群(TS群)、通常飼育するコントロール群(C群)の3群に分けた。そして、成体期で行動実験を行い、TSとMSが行動に及ぼす影響を調べた。さらに、仔の不安レベルを解析するためにP2~P10でのMSおよびTS中の超音波領域の発声頻度の計測、P5とP10での血清中コルチコステロン(CORT)濃度の解析、TSとMSによって活性化される脳部位を明らかにするためにP1でc-fos蛋白発現の免疫組織学的解析を行った。 モリス水迷路でMS群とTS群間に差が見られ、発達期のTSが成長後の空間学習・記憶に影響を及ぼすことが示唆された。また、ホットプレートテストでの温痛覚反応の潜時はMS群と比較してTS群で増加し、TSによって温痛覚の閾値が低下した。うつ様行動と不安には影響が見られなかった。 超音波領域の発声頻度がP2、P5、P7でMS群と比較してTS群で高くなっていた。一方、血中CORT濃度はP5でMS群>TS群>C群であり、MSによるCORT濃度の上昇が、TSによって部分的に改善された。c-fos染色はまだ解析例数が少ないが、C群と比較してMS群の前頭葉連合皮質、TS群の周室視床下部核、脳弓下器官、視床下部腹外側核でc-fos陽性細胞が見られ、これらの脳部位がMSやTSで活性化されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
皮膚刺激が行動の発達に及ぼす影響の解析はほぼ終了し、現在c-fosによる脳の活性化部位の解析を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)環境要因と行動の発達への影響を結ぶ脳内機構として5-HT神経系に注目して解析を行う。 1)分子生物学・生化学的解析:生後1日目、14日目、8週目に断頭し、前頭皮質、海馬、扁桃体、中脳縫線核を凍結する。これらの脳部位は記憶学習、不安、うつへの関与が報告され、また発生早期から5-HT線維が投射すると同時に種々の5-HT受容体が発現する部位である。右脳を用い、5-HTと代謝産物の発現量をHPLCによって定量する。左脳は、不安やうつへの関与が示されている5-HT1A、1B、2A, 2B、2C、4、7受容体、5-HTトランスポーターのmRNAの発現量を定量RT-PCR法によって解析する。mRNAの発現量に変化が見られた場合は、Western blotによってタンパクの発現量を定量する。 2)免疫組織学的解析:生後1日目、14日目、8週目にマウスを灌流固定、凍結切片を作成し、上記の解析で発現量に変化が見られた5-HT関連分子と脳部位に注目して、5-HTニューロンとその軸索は5-HT合成酵素(トリプトファン水酸化酵素2)や5-HTトランスポーターに対する抗体を用い、また5-HT受容体サブタイプの抗体を用いて免疫染色を行い、発現量の変化を組織切片で確認する。 (2)5-HT受容体の役割 以上の実験によって環境要因が行動に及ぼす影響と、5-HT受容体サブタイプの発現量の変化との間に相関が見られた場合、以下の薬理実験によって5-HT受容体の役割を明らかにする。即ち、生後発達期にハンドリングまたは皮膚刺激を負荷する直前に、5-HT受容体の拮抗薬または作動薬を経口投与し、生後8週で行動解析を行う。そして受容体拮抗薬または作動薬の処理によって、ハンドリングや皮膚刺激の作用が打ち消されるか調べる。このようにしてハンドリングや皮膚刺激の作用を仲介するセロトニン受容体サブタイプを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は行動実験が順調に進み、計画していたよりも少ないマウス数で行動実験が完了した。次年度以降の2年間で、皮膚刺激を含む母仔関係が行動の発達に及ぼす影響を担う脳内機構の解析を行う予定であるが、より多くの脳部位について種々の遺伝子発現とタンパク質の発現について解析を行う。そのための試薬代として使用する。
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