生後発達期の環境要因が仔の行動の発達に及ぼす影響とその脳内機構について以下の実験を行なった。 1.仔への皮膚刺激:母仔関係として母親の仔に対する皮膚刺激に注目した。新生仔期にストレスに曝されたマウスに対して皮膚刺激が仔に及ぼす影響を解明するためにBALB/cマウスを用い、生後1日目(P1)からP10まで1日あたり3時間、仔を母親や兄弟から分離させる母仔分離(Maternal separation:MS)を行うMS群、母仔分離中に実験者が筆を用いて皮膚刺激(Tactile stimulation:TS)を1日あたり15分間与えるTS群、通常飼育するコントロールC群に分けた。成長後の行動解析の結果、モリス水迷路でMS群と比較してTS群で潜時が減少傾向を示し、皮膚刺激による空間学習能力の向上が示唆された。 2.母親の養育行動: C57BL/6JマウスをP1からP14まで毎日15分間の母仔分離を行うH群、3時間の母仔分離を行うMS群、通常飼育を行うコントロールC群の3群を作製し、成体期における行動と脳への影響を調べた。行動実験により、MS群でうつ様行動が増加し、空間記憶能力の低下傾向が見られ、H群ではうつ様行動の低下傾向が見られた。一方、H群で扁桃体のBDNF mRNA発現量の増加、MS群の背側海馬でGABA-A受容体α2サブユニットのmRNA発現量の減少がみられ、うつ様行動への影響と関連する可能性が示された。以上のように、HとMSは行動と脳の発達に異なる影響を持つことが示された。 3.5-HT4型受容体の役割:BALB/cマウスを用い、生後発達期の21日間(P1-21)、5-HT4型受容体作動薬を経口投与し、成体で行動解析した。その結果、投与群でうつ様行動の減少傾向が見られ、5-HT4型受容体がうつ様行動に影響を及ぼすことが示唆された。
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