研究課題
体幹および四肢の捻転を主徴としたジストニア様の運動異常を生じるDystonin(Dst)変異マウスでは、その神経系内にニューロフィラメントの異常蓄積を示す変性を部位特異的に生じることが分かっている。本研究ではDst変異マウスに見られる神経変性領域とジストニア発症との因果関係を明らかにすることを目的とし、1)全身性(Actin-CreマウスおよびTLCN-Creマウスを使用)、2)末梢神経系(P0-Creマウスを使用)、3)中枢神経系(Nestin-Creマウスを使用)特異的にDstタンパクを異常化したマウスを作製して、ジストニア発症について検討を行い、以下の結果を得た。1) 全身性にDstタンパクを異常化させたマウスを2系統(Actin-CreマウスおよびTLCN-Creマウスを使用)作製した。Actin-Creで作製したマウスは捻転を示したが、TLCN-Creで作製したマウスでは捻転は認められなかったが、歩行異常および安静時の両下肢開脚などの運動失調が現れた。2) 末梢神経系でDstタンパクを異常化させたマウスにおいても捻転は認められなかったが、歩行異常および安静時の両下肢開脚などの運動失調が現れた。このマウスの上腕二頭筋の表面筋電図解析を行ったところ、ジストニアに見られる拮抗筋の同時収縮は認められなかった。3) 中枢神経系特異的にDstタンパクを異常化させたマウスは運動失調を示さなかった。以上の結果から、Dst変異によるジストニアの発症には、末梢神経系と中枢神経系の両方において異常Dstタンパクを必要とすること、2系統の全身性Dstタンパク異常化マウスの結果から、おそらく異常Dstタンパクの発現時期が重要であることが示唆された。
3: やや遅れている
研究代表者は平成29年度に現所属に着任した。着任後直ちに実験系のセットアップにとりかかった。しかし実験用マウスは凍結精子から胚操作等を行い、得られた産駒を成体まで育てたため、多くの時間を必要とした。一方、研究計画書の年次計画に示した1) 全身性(Actin-CreマウスおよびTLCN-Creマウスを使用)、2)末梢神経系(P0-Creマウスを使用)、3)中枢神経系(Nestin-Creマウスを使用)特異的にDstタンパクを異常化したマウスの作製とジストニア発症の確認については予定通り遂行することができた。
今年度の大きな成果は、1)末梢神経系および中枢神経系特異的にDstタンパクを異常化したマウスのいずれにおいてもジストニアが認められなかったこと、2)全身性に異常Dstタンパクを発現させた2系統のマウスにおいて、ジストニアが現れるマウスと、現れないマウスが生じたことである。1)の結果から、ジストニアの発症には末梢神経系と中枢神経系の両方においてDstタンパクが異常になっている必要があること、2)の結果から、異常Dstタンパクの適切な部位における発現時期が重要であると考えらえれた。今後直ちに確認しなければならないのは、Dstタンパクの発現時期、特にジストニアが現れる生後10日目以前にDstタンパクがどの神経領域に発現しているかということである。
平成29年度に現所属に異動したため、当初計画よりも動物作製および維持費がかかった。一方で、現所属に購入を予定していた実験器具及び試薬等が多く存在したため、これらの購入費用が減ったことが次年度使用額が生じた理由である。次年度は、当初予定したマウスの維持費よりも高額になるので、こちらに使用していく。
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Seminars in Cell and Developmental Biology
巻: 69 ページ: 26 と 33
10.1016/j.semcdb.2017.07.016