研究課題
自閉症は、社会性障害などを特徴とする発達障害群であり、脳の構造と機能の異常が基礎にあると考えられる。研究代表者らは、神経発生学的解析に強みを持つツメガエルの神経板に局在するキナーゼ(NSK)を単離し、NSKの過剰発現が神経誘導を引き起こすことを発見した。最近、NSKの哺乳類相同遺伝子が自閉症治療薬の創薬ターゲットになることが示され、神経系におけるNSKの機能解析が早急に必要である。本研究では、神経形成に重要な誘導因子シグナルに対するNSKの作用機序、神経形成過程におけるNSKの機能阻害、および神経形成におけるNSKとNSK結合因子・リン酸化標的因子の機能的な相互作用を解析し、自閉症に繋がる脳形成異常の発症機構を解明することを目的とする。昨年度までに、NSKがBMPシグナル抑制またはFGFシグナル活性化と協調的に働いて、神経誘導を強めることを明らかにした。そこで、今年度は、神経形成に重要な誘導因子シグナルに対するNSKの作用機序をタンパク質レベルで解析した。BMPとFGFシグナル、各々の指標となるSmad1/5/8とMAPKのリン酸化を調べた。その結果、NSKはリン酸化型Smad1/5/8を減少させる一方で、リン酸化型MAPKを増加させることが分かった。興味深いことに、リン酸化型Smad1/5/8はBMPシグナル抑制下でより強く減少し、非リン酸化型Smad1のレベルも同時に低下していた。また、リン酸化型MAPKについては、FGFシグナルの存在下でのみNSKによって増加し、非リン酸化型MAPKの増加を伴わないことが分かった。以上の結果から、NSKは少なくとも非リン酸化型Smad1の調節を介してBMPシグナルを抑制すること、およびMAPKのリン酸化に至る経路を調節することでFGFシグナルを活性化すると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、NSKが神経形成に重要な誘導因子シグナル(BMPシグナルおよびFGFシグナル)と相互作用することについて、Smad1/5/8とMAPKのリン酸化を調べて証明した。したがって、昨年度までに分かっていた神経誘導の促進と形態的な変化に加えて、誘導因子シグナルに対するNSKの作用点を生化学的に決めることが出来た。さらに、非リン酸化型のSmad1とMAPKを同時に調べることで、NSKが少なくとも非リン酸化型Smad1の調節を介してBMPシグナルを抑制すること、およびMAPKのリン酸化に至る経路を調節することでFGFシグナルを活性化することが分かり、作用機序の詳細が明らかになりつつある。当初の研究計画通りに研究が進展していることに加え、上記の研究結果を取りまとめた論文が受理されたことから、おおむね研究は順調に進んでいると判断する。
平成29年度および平成30年度は当初の予定通りに研究計画が進んだため、計画を変更せずに研究を継続する予定である。平成31年度は、自閉症に繋がる脳形成異常の発症機構を明らかにするために、自閉症治療薬の創薬ターゲットであるNSKと結合して共に作用する因子、およびNSKによるリン酸化の標的となる因子をツメガエル初期胚から単離する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件)
Develop. Growth Differ.
巻: in press ページ: 00-00