研究課題/領域番号 |
17K08495
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
村嶋 亜紀 岩手医科大学, 医学部, 助教 (50637105)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 血管形成 / 性分化 / アンドロゲン |
研究実績の概要 |
血管形成は一般的に血管内皮細胞が既存の血管から分枝伸長する血管新生とde novoに分化する脈管形成に大別され、どちらも胚発生に必須であり、正常な形態形成において重要な機能を果たす。現在まで、アンドロゲン依存的雄性化を示す中腎領域における血管の性差の有無やその機能については、ほとんど報告されていない。本研究ではホルモン依存的性分化過程における血管形成の性差獲得プロセスの解剖学的基盤を明らかにし、その分子細胞学的メカニズムと意義の解明を目指す。 2019年度は引き続いて中腎とその周辺領域における血管形成の性差獲得プロセスの解剖学的基盤を明らかにした。前年度までに性分化初期において性差が顕著な血管として中腎血管叢(MVP)から傍大動脈隆起(PAR)に連絡する血管や、MVPから雄特異的に形成されるとされていた体腔血管について、雌雄共に性腺動静脈へ寄与することが示されつつあり、新規の知見を与えつつある。さらに、薬剤誘導型血管内皮細胞特異的遺伝子組換えマウスを用いて性的二型を示す血管についてその細胞系譜を解析した。着目していた初期の性差構築血管群では細胞系譜に顕著な差は見られなかったものの、生殖輸管系の性的両能期に形成されている血管の内皮細胞の寄与が大きい血管と、de novoに分化してくる内皮細胞からなる血管が明確に区別される可能性が示唆された。また、前年度までのアンドロゲン受容体(AR)とCD31等血管内皮細胞マーカーとの免疫染色結果から、WD直下の間葉におけるARシグナルが血管内皮細胞のWD周囲への分布に影響を与えている可能性が考えられたため、器官培養によってARシグナルの有無とWntシグナル始め細胞増殖因子阻害時における血管内皮細胞の動態を確認するべく、サンプルの調整を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
性差形成初期に性差を呈することが確認されていたMVPからPARに連絡する血管について、後主静脈に連絡していたことから、生殖輸管を含めた付属器を還流する静脈への寄与を念頭に解析を進めていたが、本来の合流部である内腸骨動脈に連絡する様子が確認できなかった。代わりにPAR領域に発生する血管叢への連絡が後期になるに従い主流となり、これが性腺静脈となる可能性が示唆された。これは性腺静脈が主下静脈の中腎における吻合部から発生するという既存の認識(McClure and Butlar, 1925)とは異なる結果であり、主下静脈の中腎における吻合に関しても新たに検討を行っている。また、前年度までに薬剤誘導型血管内皮細胞特異的遺伝子組換えマウスの導入が完了し、今年度はレポーターマウスとの交配を行い解析した。その結果、形態の性差を構築する血管形成に部位特異的な傾向があることが示唆されつつある。以上の点において本来の計画から変更と遅れが見られるものの、これらを追求することによって既存の認識を覆しうる、新たな知見が得られると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
血管形成プロセスにおける初期の性的二型について、性腺静脈の元となる血管叢が同定されつつある。これは性腺以外の生殖器の二次的な雄化に必要なアンドロゲンの性分化初期における伝達(循環)経路に関しても新たな知見を与える重要な観察結果である。これが下大静脈に合流する経路を正確に同定し、体幹における還流路の偏位消退を正確に捉えたうえで詳細な性差獲得プロセスの解剖学的解析を行う。 器官培養においてアンドロゲンの有無とWntシグナル始め細胞増殖因子の阻害による血管内皮細胞の分布の変化について解析を進めるとともに、薬剤誘導型血管内皮細胞特異的遺伝子組換えマウス用いた細胞系譜解析を進める。2019年度に確認された性差構築により新たに形成される血管の起源の違いについて、胎生のより後期や成獣において解析を行い、解剖学的特徴付けを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたin vivo解析をin vitroに変更したり、雌雄における血管形成過程を解析するうえで重要なメルクマールとしていた主要血管の形成に関して再検討の必要性が生じるなどの問題により研究の進捗に遅れが生じたため、成果の発表にかかる費用(論文投稿とこれにかかる費用、成果発表のための旅費)が未使用額として生じた。未使用額は残りの解析、成果発表と論文投稿にかかる費用として次年度使用する。
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